~熱風の果て~

観劇の記録

「目撃者」公演@AKB48劇場

【出演】伊豆田莉奈、岩佐美咲、多田愛佳、大家志津香、片山陽加、倉持明日香、小嶋菜月、高城亜樹、田野優花、仲川遥香、中田ちさと、名取稚菜、前田亜美、松原夏海、武藤十夢、森川彩香
今年4回目となる劇場公演観戦で、ようやくドベブービー地獄から脱出でき、視界が開けた。やはり視界は公演の満足度を大きく左右する。昔なら、干されてもすぐに次があるしお立ち台に行けばいいかと気楽なものだったが、今や次の機会がいつになるか分からない上に、20順以降での観戦環境はまず期待できないので、何度となく経験している抽選にも緊張してしまう。立ち見後方でも入りたいという人も当然多いとは思うが、劇場のレイアウト変更に伴って当選者の数を絞ってもいいのではないかと思う。
前座ガールズの「ミニスカートの妖精」は、12期のサイードさんに、13期の大島さん、村山さん。サイードさんの笑顔が目立つのは、彼女自身が前座でもステージを楽しもうとしているということもあるし、13期の二人に、余りにも笑顔がないせいでもある。この曲は笑顔以外の選択肢があり得ない希望に溢れる曲なのに表情がないというのは、緊張なのか萎縮なのか・・・。12期、13期の経験の差に一般化するのは早計ながら、13期生の「RESET」公演の雰囲気が心配になってしまった。そんな中で、終盤の間奏で13期生の二人の目が合ってニコっと硬い表情が崩れた一瞬には安堵した。
己はテレビや雑誌やネットなど、公演以外の場でメンバーの顔を見る機会がほとんどないので、いつもながら1曲目ではメンバーの同定に苦労する。前髪ぱっつんの子は研究生だな、と思っていたら、何とはるごん。クレオパトラのような髪型と、それに合わせたような明瞭なアイラインがオリエンタルな雰囲気を引き出す。曲中の表現力はすっかり安定してきた彼女だが、MCで見せる口と脚を無防備に開く姿とのギャップもまた彼女の魅力だ。
あーやろいど自己紹介を地道に続ける森川さんは、だんだんと才加に似てきた。自信がついてくれば、身長より大きく見える身体と長い手足がステージに映えてくる。才加のデビュー時の年齢よりもまだ下ということを考えれば、今後、大きく育つ可能性もあるように思う。
もっちぃの控えめメークはまだしっくりと来ないので、彼女がステージにいることに気がつくのがだいぶ遅くなってしまった。これまでの彼女の個性を形成していた強力な目力はなくなったが、その代わりに微妙な表情の変化はよく読み取れるようになったので、結果的に、彼女に目を奪われる時間は以前よりも長くなっている。
8期生以降では、唯一己と握手したことがあるAKBメンバーであるわかにゃん。彼女の公演への出演を見たのは、昨夏の2回のB5公演のみで、彼女の「目撃者」公演を見るのは初だった。今日の公演の感想は、とにかくわかにゃんに圧倒されたことに尽きる。序盤から、アンコール後の「真夏のサウンズグッド」まで、彼女の顔を探し、その姿に釘付けとなった。劇場公演でメンバーの表現力に瞠目し、その虜になるような感覚はいつ以来か。
AKB加入前より芸能経験は持っていた彼女ではあるが、昨夏のB公演を見たときには、その強みを十分に生かしているようにも見えなかった。おそらく、経験だけでは語れない彼女自身の成長と、深い感情と情念を表現する曲が多い「目撃者」公演の曲との相性の良さもあるだろう。
「目撃者」公演は、チームAのメンバーの多くも、表現の方向性を見定め切れないままに凝固してしまったようなところも見受けられる難しい公演。わかにゃんは、前田さんポジションで位置的にステージの中心を占めるだけにとどまらず、表現力の面でも強烈な引力でステージの重心も占めていた。
詞の世界に感情の飛沫が散るような曲では、眉間に険を構えつつ、瞼の間隔を細めた奥から放たれるまばゆい光。中盤の曲で言えば、「美しき者」ではそこに不敵な笑みが妖しげな魅力を添える。「アイヲクレ」では、少し力が抜けて前曲とは異なる艶気を表現する。「摩天楼の距離」では愁眉を開き、幸せを運ぶ4つの笑窪が輝きを見せる。曲によって表情を自在に使い分ける彼女・・・いつの間にこれほどのレベルに達していたのだろう。表情だけでなく、表現のツールとして首を大きく使えるのも彼女の強み。今日は髪を結ばずに大きくウェーブをかけていたため、首の動きに合わせて波打つ髪の毛先までが彼女の表現をより大きく見せる助けとなっていた。
今のわかにゃんを評価できないAKBではあってほしくない。前田さんポジションで出ているということは、多少なりとも評価はされているということかもしれないけど、もっと正当な報酬を得てもいい。とにかく、わかにゃんが出演する「目撃者」公演!次の機会がいつやって来るか分からないが、この期に及んで劇場公演に求めるものを見つけてしまった。
なっつんは「いびつな真珠」の歌いだしを任されていたということは、小嶋さんポジションなのかな。彼女の場合は、「目撃者」公演にまだまだ苦戦中だ。顔のつくりが濃いわけではなく、メイクもナチュラル指向の彼女は、もっと表情を大げさに見せていかないと、ステージ上で埋もれてしまう。愛嬌のある笑顔は健在なのだが、「目撃者」公演では、彼女のその強みを生かせる場面は限られているので、もっと幅を広げていくことも必要だと思う。MCでも頑張って発言してほしいな。
「ずっとずっと」では、曲が終わるや下手花道から長駆して上手柱前のポジションに戻ってきたなっつん。その直後にらぶたんから何度も声をかけられていたのは、何かアドバイスを受けていたのかな。そんなことをしていたら、らぶたんはオンデマのカメラマンからお喋りを注意されてしまったようだったが、先輩らしいところが見えた場面だった。
「腕を組んで」に出演した、もっちぃ、わさみん、らぶたんの3人が、ちぃちゃんを加えて「☆の向こう側」にも揃って登場。似た曲調のこの2曲で、エレガントな空気を劇場の中に固定化し、舞台の背景に描き込んでいったような感じだった。
ちぃちゃんとはーちゃんは、楽屋で喧嘩ばかりしているという良い仲。ソフトな三つ編みで上品なお嬢様風にめかしこんだちぃちゃんと、波打たせた髪とデコ出しで泥臭い表現も得意とするはーちゃん。出演ユニットでも、「愛しさのアクセル」と「☆の向こう側」という対極で正反対の表現を見せる二人はいいコンビだ。しーちゃんからキスを勧められ、「せんべい臭い人とはイヤ」と拒絶するはーちゃん。
今日の通常公演初見は、田野さんと武藤さん。田野さんは小柄な身体を大きく弾ませ、表情の振れ幅も大きくて印象的で、高いアイドル性が感じられた。AKBで研究生をやっていると保つことが難しい、15歳という年齢の少女が放ちだすキラキラ感を遺憾なく発揮する彼女の姿は貴重だ。
「炎上路線」はあきちゃとしーちゃんのペア。これまで己が見た公演では、コントラストを成すコンビで演じられることが多かったが、今日の二人は似た背格好。一人の女性の心の揺れを演じる曲と考えれば、この方がキャスティングとしては正しいのかもしれない。
アンコール後は、まだ「GIVE ME FIVE」をやってくれるのかなと期待していたら、今月発売になるという「真夏のサウンズグッド」が演じられた。ここでもわかにゃんがセンターであり、気力が充溢し切って吹っ切れた笑顔の彼女に魅了された。新鮮味のない曲調ではあるが、劇場で演じるのであれば、スピード感があって大いに盛り上がれる曲だった。