~熱風の果て~

観劇の記録

ACT泉鏡花(アトリエダンカン)(東京グローブ座 10/2、10/4、10/6)

【作・演出】加藤直

【出演】近藤正臣木の実ナナ、松本慎也、山本芳樹、曽世海司秋元才加片山陽加仲川遥香佐藤亜美菜浦野一美、宮奈穂子、三浦涼介、三村晃弘
二度挫折して三度目にしてようやく読破した「草迷宮」くらいしか馴染んだことがなくて、代表作といわれる「高野聖」なんて挫折した記憶もないくらい何年も前に買った文庫本が放置されている始末。泉鏡花には、とかくとっつき難いイメージがあったが、今回の舞台を見に行くことにしてから予習かたがたいろいろと読んでみて、ようやく心地よくも感じられるようになったような。魔や霊や幻想の世界よりは、男女の情念を描いた作品の方が個人的には好み。そういう意味では、「ACT泉鏡花」のラインナップの中では「義血侠血」をいちばん楽しみにしていた。木の実ナナが艶やかに変身し、白糸太夫いよいよ舞台のクライマックスを飾るかと期待感を高めながら見ていたら、見世物小屋が登場しただけでそのままカーテンコールへ。そんなー。
舞台の流れとしては、「絵本の春」→「海神別荘(1)」→「湯島の境内(1)」→「海神別荘(2)」→「湯島の境内(2)」→「天主物語」。AKBの曲からは、「月見草」、「飛べないアゲハチョウ」、「桜の栞」が使用された。作品同様の難しい言い回しがそのまま使われるので、予習をしていなかったら流れを即時に掴むのは難しかったかもしれない。
鏡花役は近藤正臣近藤正臣といえば、己にとっては、まず「田原坂」の大久保利通。紀尾井坂でめった斬りにされる場面と最期の言葉は子供心に強烈な印象を残し、今日まで至っている。どちらかといえばコミカルに軽妙に演じられる鏡花と、シリアスに重厚に演じられる早瀬の両面の演技の振幅が見事で、早瀬も近藤さんが演じているとは気がつかないくらいだった。「湯島の境内」は、どうして先生の命令がそれほどまでに重いものなのか、戯曲を読んだときには分からなかったが、紅葉先生と鏡花と桃太郎姐さんの関係が底にあるとこの劇で分かって多少は納得できた。
「絵本の春」も鏡花の少年時代の体験を基にした妖しい世界を形成している。ふと、陽水の「小春おばさん」を聴いてみたら、この世界観と通じるところが多かった。
はーちゃんは「海神別荘」の生贄の花嫁役。脇役陣の和洋折衷の派手な衣装とコミカルな楽曲に混じって繰り広げられる人間と物の怪の間で揺れる愛の物語を、はーちゃんは高い歌唱力を見事に発揮し、演じていた。難しい役ではあるので、役への情熱が芯まで届いた「憑く」というレベルまでにはまだ隔たりはあったが、鏡に映る己の蛇身に悶える姿は見ごたえ十分だった。10年後、20年後が楽しみなAKBメンバーといえば、はーちゃんの名前は外すことはできない。
才加は、「天主物語」の女主人公である富姫役。舞台で生きていく決心さえつけば、才加にはもはやAKBの肩書きは不要ではないかとすら思わせる威厳が備わっていた。あとは、狂言回しの卯(宮菜穂子)、酉(三浦涼介)のような演技を身に付ける機会があれば鬼に金棒。次世代を見据えれば、ダンカンとしても才加はぜひ欲しい人材なのではないだろうか。そういえば、「海神別荘」といい、「天主物語」といい、魔と人間の関係性は、「AKB歌劇団」に近いものがあった。広井王子氏も鏡花を参考にしたのかもしれない。亀姫たんはCinDyがあんみつ姫のような髪飾りを付けて嬉しそうに演じていた。亀姫はあみなちやんも似合いそうだな。
男性俳優まで動員してのハイタッチに握手会、リピーター格安チケットとか、アトリエ・ダンカンは正統派のようでしたたかだ。元々前売りで複数日買っていた人が受付でやかっているのを見かけたが、気持ちは分かる。