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~熱風の果て~

観劇の記録

AKB歌劇団「∞・Infinity」@シアターGロッソ

演劇 演劇-2009年
【脚本・演出】広井王子

【出演】秋元才加宮澤佐江柏木由紀高橋みなみ岩佐美咲米沢瑠美佐藤夏希中塚智実田名部生来仲谷明香中西勝之、村井亮、高橋光、安達雄二、中田ちさと片山陽加野中美郷内田眞由美
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10月30日に開幕し、毎日上演されてきたAKB歌劇団も残るスケジュールは僅か。昼の佐江・ゆきりんペアの千秋楽が己の初ロッソとなった。Gロッソには、ヒーローショーをやっているということで、半屋外、半円形の劇場を勝手に想像していたが、中規模の映画館のような完全密閉のつくりに意表をつかれた。想像していたより横幅が狭く、最後列から舞台までの距離も近かった。これなら、Gロッソのユメシナ公演が盛況を続けているというのもうなずける。
「Infinity」のストーリーは素直で、伏線や謎解きのような要素も見られず、難解な芸術を解する素養のない己には合っていた。オープニングの病院のシーンをどうとらえるかというのはあるか。第1幕は学校、ルカの屋敷、海、渋谷と場面と人物を入れ替えながら、笑いを交えて雑然と過ぎていく。休憩とほねほね戦隊を挟んで始まる第2幕はクライマックスまで直線的に急な坂を上っていくよう。中西さんのプロの歌声は、ストーリーにギアチェンジをもたらし、シアターの空気を一瞬にして変える迫力と説得力があった。ホンモノを間近で感じることができているというのもメンバーにとっては糧になっていることだろう。
台詞に比べて歌の比率が高いとも感じたけど、一般的なミュージカルはこんな感じなのかな。あるいはメンバーの負担を抑えるためか。使用楽曲リストが代表曲をただ並べるのではなく、ストーリーに合った曲を厳選している感じがしたことも歌劇団への期待を高める要因になっていた。実際に聴いてみると、ストーリーに無理に結びつけるような選曲もなく、きれいに溶け込んでいた。「リオの革命」をこう使ってくるかー。使用楽曲にシングルや現役セットリストの曲が少ないのは偶然でもない。今のAKBには、このミュージカルに使えるような、心に響くストーリーが足りていないと思う。
主役のルカはダブルキャスト。才加のルカは正調。男役を演じるために必要なものをすべて兼ね備えている彼女らしく、力強さと包容力のある男性を演じ切っていた。歌唱力も文句なしで、期待していた以上の出来ばえだった。AKBではやや異端なキャラクターである才加だが、彼女の成功なしには、AKBプロジェクトはどれだけ成功しようと不完全なものになる。今日の彼女の舞台を見て、才能を解放させる場をもっと与えてあげてほしいという思いを強くした。
佐江のルカは、おそらくは彼女の自由な魂が、制作側が想定していない方向にキャラクターを進化させて出来上がったものだろう。己がイメージしていたルカとは異なる、純粋で感情的な主役像をつくり上げていた。安定感があるのは才加の方だが、荒削りな佐江のルカからは、水平線の見えない大洋のような大きな可能性が感じられた。
ヒロインの麻里亜もダブルキャストゆきりん麻里亜はこれぞヒロインというべき、清楚に完成された容姿もさることながら、歌唱力が素晴らしかった。高音にビブラートをかけてミュージカルを意識した歌唱を破綻させることなく、役の感情を声にぶつけていた。B3の「Two years later」や「命の使い道」を見た頃から、彼女の悲しみや苦悩、破滅を表現した演技をいつか見たいと思っていた。麻里亜で彼女の女優としての可能性も再確認できたことだし、女子高生でいるうちに演技の方面で大きい仕事をしてほしい。
普段はヒロインタイプではなく、どちらかというとルカの方に近いイメージのたかみなの麻里亜には最初は違和感を感じたが、か弱さと強さの両面を表現しなければならない麻里亜にたかみなはぴったり。客観的にAKBの今の状況を見るに、AKBからソロ歌手が羽ばたくイメージはなかなか持ちにくい。個人的にはたかみなには歌手としてより女優として大成する道を望んでいるので、もっと上のレベルも求めてみたい。
脇役では歌子のNなっちがいちばん目立っていた。劇団NYで見せていた高い演技力を発揮する機会も最近はめっきりなくなってしまっていたので、女優・Nなっちが生き生きと舞台に立っている姿にはうれしさがこみ上げてきた。
伊佐子のよねちゃんは、演技の安定感が抜群。よく通る声は舞台向きだし、どんなキャラクターもオールマイティに演じることができそうな彼女も、才能を伸ばしていってほしい一人だ。
今回の出演メンバーで最年少ながら、副部長役に抜擢されたわさみんは、意外なまでに圧倒的な声量を活かしてのパワフルな歌唱が印象に残った。完成度という点ではまだまだだったが、彼女も間違いなく原石だ。お下げ髪で、先輩に見えないわさみんの愛がさっぱりした口調で仕切ったり下級生を叱責したりする姿は微笑ましくもあった。109の赤い髪のおしゃれなお姉さん役は美しかった。
下級生代表として重要な役どころを任された中塚たんは、語尾を上げるような敬語のしゃべり方に特徴があって、愛らしかった。
めーたんが推している双子メイドのなかやんとたなみんのコンビは、人間とも異形ともつかない役どころということもあって、他の脇役とは一線を画す存在感があった。なかやんは役を与えてあげさえすればいい仕事をする。
下級生役のはーちゃん、ちぃちゃん、美郷たん、うっちーには、台詞で個性を発揮する場面は非常に限られていた。そのあたりの悔しさというのも当然あるはずだが、幕が開いてしまえば、笑顔で華やかさを添えていた。「君はペガサス」では愛の象徴のような役に変わって、ルカの心情の投影を効果的に助けていた。しかし、この4人のいちばんの活躍の場といえば、「ほねほね戦隊」だなっ。ちなみにお見送りは2回とも脇役レーンで写真も2回ともうっちーから。さっきまで舞台に立っていた脇役陣10人に見送られながら劇場を出ることができるというのは極上のおまけだった。
ブログやパンフレットのコメントを読んでいると、限られた予算と稽古時間の中で、歌劇団広井王子氏に任せたのは正解だったと思う。今回の成功により、第2弾が制作されることがあるかもしれない。その場合、今回以上に様々な利害や思惑が介入してくる中で、どこまで芸術に誠実でいられるかが鍵になるだろう。
AKBの劇場公演や周辺活動だけでは、今回の歌劇団で明らかになったようなメンバーの魅力を引き出し切れてはいないし、才能を封じ込めてしまっている面もある。とはいえ、今回のような試みが可能なのも、AKBという土台があってのこと。AKBが転んではどうにもならないことは理解しているが、普段はAKBブランドと秋Pの影響力の傘に守られているメンバーが、今回のように異なる波長の光を当てられることで、AKBとしての活動におけるものとは異なる輝きを放てるような試みは続けてほしいと思った。また、今回の出演メンバーは貴重な経験を通して一回りスケールアップしたことは間違いないので、劇場公演にどういう形でフィードバックされていくのかという点にも興味を持って見てみたい。