~熱風の果て~

観劇の記録

ワールズエンドガールズスタート(アリスインプロジェクト)@シアターKASSAI

【脚本・演出】浅間伸一郎

【出演】松上祐子、小花、麻生かな相田瑠菜、江里奈、稲森美優望月るな、田口夏帆、天野麻菜、澤田樹里亜、服部喜子、財前光希、樫村みなみ、篠原ゆり、荒屋知子、会原麻彩、松下恵里香、稲村亜美、今さえ子
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アリスインプロジェクトおなじみのSFもの。今回の作品は、SFであっても法則や超現実に支配されるのではなく、登場人物たちのささやかで一途な想いがマクロスケールを動かしていた。このあたりのスケールのミックス感は好みだし、「まなつの銀河」よりもクライマックスに至るまでの説得力があった。松上さんと小花さんの役は、作品を真に完成させるには男性と女性が演じなければならないものだが、女性キャスト限定のアリスインでそのような設定をもってきたこと、安易に百合的要素につなげなかったことはむしろ印象が良い。
シアターKASSAIでのアリス舞台ではこれもお馴染みの無機質な白壁教室セットだったが、一つずつの場面が短くテンポよく進んでいったので、背景の平板さや会話の間延びといったストレスはほとんど感じずに済んだ。上演時間に比べると多すぎる登場人物たちに個性を持たせる上でも、この手法は奏功していた。
主演は、初舞台となる松上さん。元AKBN0ということや、東京まで通う交通費を工面できないというエピソードは知っていたので、ここで主演女優として登場してくるというのは意外でもあったが、主役をつかむだけの可憐さは感じられたし、自由奔放な前半と、思い悩み行動する後半をしっかりと演じ分けられていた。彼女に限らず、初舞台の子を含めて演技力は高かった。アリスインプロジェクトに求められる水準からすれば、演技も作品も十分なものだった。
「まなつの銀河」でマルゼ三等兵を演じていた麻生かなさんは、アリスインアリスの一員になるとともに、シングルキャストに出世。ケンケンパで歩く、無邪気で子供っぽいようでブラックな部分も持っていそうな役。容姿と声のアンバランスさがあるので、女の子役よりは前作の少年役の方がはまり役だったかな。このギャップを生かして、もっとブラックな面を強調した役なんかも見てみたい。
麻生さんとマルゼ三等兵役を分け合っていた篠原ゆり丸。下っ端ヤンキー、少年兵と来て、今回はさっぱりとした上級生役。ようやく普通の女子高生の役ながら、これも普段の彼女とはかなり毛色の違うタイプとか。張らなくてもよく通る声は舞台向きだし、台詞回しも役に合わせて堂々としていた。感情を言葉に自然に乗せられるようになれば、シングルキャストまではすぐにでも手が届きそう。前作に続いて終演後の握手会にも参加してきた。負の感情を出さずに、いつでも明るい姿を見せてくれるのが彼女の魅力で、今回も足取り軽く会場を出ることができた。
目に付いたキャストは、コミカルな表情でドジっ子を演じていた相田さん、発声が素晴らしいロックライブでのモッシュッシュが生きがいという天野さん、愛嬌ある下ぶくれ顔のトロ丸松下さんといったところ。
うさ耳カーデガンが可愛らしい最年少13歳の澤田さんに、初稽古のときにはキャストの一部が未定で不安だったと言わせてしまうような事態はよくない。今回は久しぶりにチケット発売時点でもキャストの一部が未定という状況が生まれてしまっていたし。初日では混乱していた会場運営。KASSAIはアリスインのホームのようなものなので、願わくば初日から整然とやってほしかったが、千秋楽には改善されていた。会場運営に問題があっても、アイドルファンはやかったりすることもなく。舞台を見に来るようなアイドルファンは、おおむねマナーが良いので安心できる。

私立グリグリ学園(つくばテレビ)@新宿文化センター

【脚本】福原フトシ、藤谷弥生

【出演】内田理央、志田友美、杉ありさ、大浦育子、高田あゆみ、飯田ゆか、山田美緒、森本望美、岩咲桂、八木静里菜、北山亜莉沙、橋本ゆりあ、井出真葵、有里彩、新井愛瞳
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「美少女コメディー倶楽部」と銘打たれたこの舞台。ひぃちゃんやうっちーもゲスト出演するということだったが、他の予定との兼ね合いで、アップアップガールズ(仮)の新井さんが出る回を観劇。演劇色よりコント色が濃厚で、出たとこ勝負のアドリブが決め手となっていた。
事前に調べたところ、会場の小ホールは舞台が低く客席は平場のパイプ椅子ということだったので、舞台がまともに見えるか心配だったが、キャパの半分程度の客入りにとどまっていたこともあって、予想よりは問題なかった。
バラエティが本業ではない女の子たちがコントを演じるためには、いかに恥を捨てて照れずにやり切ることが大事かということが改めて分かる。その点、内田理央さんは申し分ない。うろたえたような表情を見せてから、必ずやり切ってしまう。内田さんと並んでメインの扱いだった志田さんはまだ15歳。年齢を調べて驚いたが、堂々とした貫禄があったし、コントもハイテンションでこなしていて、大物だと思った。
飯田ゆかさんは、スマイル学園というアイドルグループのメンバーらしい。お耳がぴょんぴょんヘアが幼さを際立たせる上に、声変わりしていないかのような無邪気な声色、それでいて堂に入った抑揚のある台詞回し。今日、はじめて見た人たちの中でいちばんインパクトがあった。恋愛妄想部の部長役でキュンキュンしている演技はものすごい破壊力があった。次に彼女が舞台作品に出演する機会があれば見に行きたい。

星を撃ち落とす(劇団はんなりふるぼっこ)@pit北/区域

【脚本・演出】桑田拓哉

【出演】早川蓉子、安齋美穂、干場明日美、関田剛志、斉藤麻衣子、渋谷優史、中井萌
劇団ジャイキリの「ワンダース☆インベーダー」に客演していた斉藤麻衣子さんと、彼女が所属する劇団名の不思議さと、今回の演目のストーリー紹介がそれぞれ少しずつ気になり、劇団はんなりふるぼっこの第2.5回公演を観劇。斉藤さんのほか、関田さんと渋谷さんの男性陣も、「ワンダース☆インベーダー」のゲーマー軍団だ。
劇場は王子駅前の地下。今にも水脈から水が漏れてきそうな、アングラ感あふれる空間で、舞台は二正面になっており、今回は使われなかったが、2階からピット中の舞台を見下ろすような座席配置も可能なつくり。
ストーリーはまさに演劇的で、夢とうつつの混在、廻転する世界のループが重なり、舞台上ではスポットライトが当たるメインの脚本の裏で、無言のやり取りで別の会話が進行する群集劇にもなっていた。
ジェイクラス坂田涼さん似でもある斉藤さんは、「ワンダース☆インベーダー」と同じく、クールで気の強い女性役。低めの声はドスを効かせることもできるし、ルックス的にもこういう役が似合う。
個性的な役者さんが揃っていた中で、いちばん目を引いたのが中井萌さん。役名は何と「本」。終わらない輪廻を作り出した根源でもある、浮世と180度離れた位置にいる人間を、耳にくすぐったい、印象深い澄んだ声で謎めき感たっぷりに演じていた。今作に限らず、人間以外の役を演じさせてみたくなる方だ。
「本」は、「パラダイスロスト」で斉藤亜美さんが演じたシホのようでもあり、「ロボット」で馬渡さんが演じたミライのようでもあり。と言っても、この3作品を見た人は自分のほかには誰もいないから伝わりようがない・・・というのもまた舞台の面白いところ。
星を撃ち落とすにも、超常的なことを期待するのでも諦めるのでもなく、バクテリアミトコンドリアになるように、一歩ずつ何かを変える努力をすべし、というメッセージも読み取れた。「世界の終末」を描く舞台は多いが、悲壮感のなさも含め、新鮮な描き方だった。

ぱぢゃまdeおじゃま?(女神座ATHENA)@高田馬場ラビネスト

【作・演出】山口喬司

【出演】冨手麻妙、山川ひろみ、池上紗理依、鈴木絵未里、日野麻衣門田典子三田寺理紗、古河結子、守永七彩、宮島沙絵
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昨冬の旗揚げ公演「冬椿」に続く女神座ATEHAの2nd IMPACT。前作でこれ以上のものをつくるのは難しいだろうというレベルのものを送り出した後なので、第2作に対する不安というものは直後から抱いていた。チケット売出しイベントに参加はしてみたものの、30人規模のアイドルファンの範囲までを相手にするような売り方、考え方にも疑念を深めた。「冬椿」では、そんな疑念は完全に払拭され、脱帽するしかなかったので、今回も女子寮とパジャマという狙ったようなタイトルと雰囲気の劇と思わせて、驚きを与えてくれるだろうという期待も持っての観劇だった。
結論から言うと、疑念は深まった。2段ベッドを2台など女子寮の1室を華麗に乱雑に再現し、劇中で模様替えまで行ってしまう大掛かりなセットの中で、基本的にはパジャマでワイワイ、ゴロゴロ。ストーリーはあってオチもあるが、心に響くというものではないし、女子寮の雰囲気はリアルを追求する感じで、「萌え」の要素は少なく、喧しい笑い声が劇場にこだまする。劇中の多くの時間で聞かされると、気分のよいものではない。これだけ女の子がいて、ぶりっ子キャラがいないというのも珍しい。リアルにそうそういるものではないかもしれないが、キャラクターのバランスや萌え要素を考えると、一人くらいいてもよかった。
笑いどころは、「てんいちっ」ネタ。天下一發Tシャツから始まって、ロンカーフェイがアクションスターになっていたり、架空の映画が実際にセットの中のテレビに映し出されて餃子和尚やシューヤオが活躍したり。他の笑いどころは、古河さんの偉大なキャラクターに依存するところがほとんどだったので、「てんいちっ」を見ていたおかげで、2割増しくらいには楽しめたか。ただ、コメディタッチの舞台にしては、笑いの要素は弱かった。アイドルでもある経験の少ない女の子たちにコメディをやらせるのであれば、もっと突っ走ってアイドルにここまでやらせるかというくらいのことをやらせてあげないと逆に苦しい。笑いという点でも、硬派な時代劇でもあった「冬椿」の方が上だったというところに、この舞台の中途半端さが感じられる。
終演時に、心を込めた拍手ができなかったのが後ろめたい。冬には第3弾の構想もあるという女神座ATHENAだが、どのような方向性でいくのか難しいところ。今回のような作品が続けば、先行きの見通しが曇ってきもしてしまう。
出演者の演技は概ね安定していた。この点では安心の女神座ATHENA。舞台では3作品目の主演作となる冨手さん。干物系でもっさりとした役はこれまでとは大きく異なる。2段ベッドの上で寝そべってマンガを読むシーンが多いので、主演という割にはあまり顔が見られなかった。これまでの主演作同様、今回もいまひとつ印象に欠けた気がしてならない。進学せずに役者としての道を歩むことを決めたのであれば、自分なりの個性を強く打ち出していくべきだろう。
気になった出演者といえば、新入生役の鈴木絵未里さん。「俳優を真剣に目指す少女」を自称するだけあって、少し空気の読めないおっとりとした役どころを着実に演じていた。Girl〈s〉ACTRYからは、前作で主演の日野さんのほか、連続出演の三田寺さん、女神座初登場の門田さんの3人が出演。様々な舞台に人材を送り込むGirl〈s〉ACTRYではあるが、肝心の自前の公演は長いこと行われていない。高城さんが引退するなど遠心力が働く中で、今後の活動の方向性は見えてこない。お嬢様な寮長役の三田寺さんは、普段からのゆっくりとした喋り方が役のイメージと合っていて、はまり役だった。
ブログレビューキャンペーンを今回もやるという女神座ATHENAだが、心から楽しめたというレビュー以外は対象外とか。今回の舞台にはアンケート用紙も用意されていなかったが、内容的には賛否両論あって然るべき作品だったと思うし、批判は聞きたくないということでは内輪受けで終わってしまうだろう。

月下のオーケストラ(Flying Trip)@シアターグリーンBIG TREE THEATER

【脚本・演出】春間伸一

【出演】黒田有彩内田理央フォンチー緑川静香、荒井奈緒美、鈴木ふみ奈、亜希子、時田愛梨関根優那後上翔太、根津茂尚、加藤岳史、長谷川友貴、倉田瑠夏
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今年に入ってから、心のど真ん中に刺さる舞台作品に出会えていない気がして、己の感情の浸透性がゼロに近いせいかとも思えてきていたが、ここで出会えた。これまでも良質な舞台を提供し続けている春間さんのFlying Tripの舞台を見に来たことに、今回も間違いはなかった。
「落下ガール」、「ストパラ」、「空色ドロップ」、そして今回の「月下のオーケストラ」と、次第に非現実的な設定が減り、日常、現実の方に近づいていっており、今回は非現実的な要素はほぼゼロになっていた。このあたりも、作品を重ねるごとに、スタッフ、キャストの自信が深まっていることの表れとも言えるだろう。脚本だけでなく、音楽や舞台セットなど、演劇を構成する全ての要素が、劇中の世界に意識を導く。安易なご都合主義のハッピーエンドに走らなかったラストの展開も余韻を残すものとなった。男性陣を含めた複数のエピソードが交わる構成は、病院という限られた空間に深みを与えてくれた。
黒田有彩たんは、とても受け入れることのできない病を宣告され、大切なものを失っていくという、重い悩みに支配される役。彼女の演技、いわゆる舞台演技ではないのだが、本当によく伝わってくる。繊細に感情を伝えることにかけては、くろありたんには天性の才能の輝きを感じる。ラストシーンではハーモニカと歌も披露。彼女の歌唱力が高いのは新たな発見だった。
彼女の親友役は、今回も座長を務める内田理央たん。彼女にとっては、これまでの作品とは毛色の異なる役で苦労もあったはずだが、友のために揺れる感情と苦悩と強さを自然と表現できていた。黒田・内田コンビは3作品連続になるが、毎回違う顔、そして成長を見せてくれるし、演技も素晴らしい。これだけ続いてもマンネリということはなく、次の作品でも彼女たちのコンビを見たいと思う。
パンフレットでは女性陣は全員ナース服なので、そういう設定かと思ったら、半分は病人役。17歳の関根優那たんは、前作に続いて中学生役。長内という役名どおり、ツインテールでパジャマ姿だと中学生にしても幼く見えるくらい。前作ではたどたどしかった演技も目覚しく成長していた。好調レッズを影で支えるとっきーは、幽霊に怯えるパニック障害のような役。「まなつの銀河」の機械教師役と比べると、空回り気味にも見えたが、よくよく考えたら教師がはまり役すぎただけ。彼女には、病人よりもナースをやらせるべきでしょう。
終演後は、こちらもハイタッチ会。「空色ドロップ」では観客の拍手にもかかわらず実現されなかった男性キャストとのハイタッチもあり。女性アイドル中心の舞台であっても、キャスティングでもハイタッチでも、男性キャストの存在はあった方がいい。
後上翔太くんは、「純烈」というムードコーラスグループに所属しているということで、16日の公演では、純烈のミニライブがあった。このグループのことは全く知らなかったが、舞台物販の写真を140セットも売り上げたという翔太くんだけあって、幅広い年齢層の純烈ヲタが客席の結構な割合を占めていて、サイリウムやウチワを振る女性が多数出現。さっきまでアイドル中心のほろりとする舞台が行われていた空間であったことを忘れるくらいのホットな空間が出来あがっていた。