~熱風の果て~

観劇の記録

週刊少年てんぎょ(男〆天魚)@中野ザ・ポケット

【作・演出】井上テテ

【出演】長戸勝彦、平野勲人、藤江れいな、小笠原健、須藤茉麻、幸村吉也、古賀司照、宮澤翔、緒方和也、加藤葵、橋渡竜馬、氏家蓮、青柳伽奈、徒然みおれ
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昨冬の第5回公演「ろくでなし八犬伝」が、これまで見た作品の中でもトップクラスの満足度だった男〆天魚。それがあったので、今作は自分の中ではハードルは上がっていたが、やはり大満足の出来栄えだった。
漫画の中の世界と現実らしい世界の描写が行ったり来たりで、辻褄はしょっちゅう行方不明に。シーン転換ごとに、演じるキャラクターが変わればテンションも変わり、衣装も早着替え。ともすれば役者も観客を置いてけぼりにしていきかねないところだが、フライヤーの「FREE WORLD」ぶりがこれでもかと発揮されていて、さすがは男〆天魚。前作に比べればやや品がよくなってしまった印象だが、情けなくも微笑ましいおじさんパワーは健在。ベテラン勢と若手勢の力がミックスされて、テンポの良さと激しい動きや殺陣にも対応できるチームワークは、本番までしっかりと準備を積み重ねてきた証だった。狂言師居酒屋や突如挟まるダンスシーン、幸村さんの歌唱力が光る歌唱シーンなど、井上テテさんの奇想天外なアイデアとそれを舞台の上で表現できる役者陣が揃えば、2時間の楽しい時間はあっという間に感じられた。そんな物語も最後にナレーションが介入して、一本のキャンドルが残されるように静かに暖かく終演。少し不思議な感じのあった舞台セットや漫画の吹き出しやトーンを模した衣装も、終わってみれば合点がいった。
れいにゃんこと藤江れいなさんの出演作品は、2010年の初舞台から見てきた。間もなく25歳という年齢になりながら、天真爛漫で邪気を感じさせない透明感は今年も衰えるどころかますます強まっている。AKB時代から魅力的だった表情の豊かさは、舞台での演技で威力を発揮するし、手足の長さも生かした大胆なポーズなど、大きな演技を見せていた。辛い経験の記憶を抱えながら、それを強さに変えて前向きに生き、向こう見ずに真正面からぶつかっていく、けよ子のキャラクターは、れいにゃんの持つ芯の強さが投影されたようなところがあったし、静かに語るシーンではしっとりと、演技の新たな一面が現れていた。1年に1回と言わず、もっと舞台で見られる機会が増えてほしい。
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赤の女王(ILLUMINUS)@WEST END STUDIO

【脚本・演出】吉田武寛

【出演】出口亜梨沙、岡田彩花、栗生みな、千歳ゆう、西村美咲、丸瀬こはる、辻村りか、針谷早織、松山莉奈、濱野彩加、畑崎円、岩倉帆花
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2011年に上演された「VAMPIRE HUNTER」という作品があった。人間と吸血鬼との戦いを描いた暗鬱な悲劇で、好きな作品だったのだが、それに似た色彩を持つ作品には、以来8年の間、出会うことはなかった。そこに入ってきた「赤の女王」の情報。ビジュアルに時代背景にあらすじ。どこからどう見ても、己の好みに合わないはずがない作品。加えて、昨年12月の舞台「スナップ・アウェイ」で、役者としての進境が著しかった岡田彩花さんの演技を見るのも楽しみで、すぐにチケットを購入した。劇団STUDIO LIFEのホームであるWEST END STUDIOは割と近所で、よくお姉さま方が並んでいる光景は見ていたが、入場は初めて。100人規模の地下劇場で、通路などは狭いが、天井は高く、客席の段差が大きく取られていて見やすい劇場だった。
時代は1610年。実在の世界に照らし合わせれば三十年戦争前夜で、この作品でも、ルター派の存在が重要な位置を占めていた。三十年戦争は、キリスト教内の宗派対立を発端とする無慈悲極まる戦いだが、その時代の暗さに惹かれる部分もあって、グリンメルスハウゼンによる小説「阿呆物語」や、シラーによる戯曲「ヴァレンシュタイン」などは好んで読んでいた。
そんなわけで、見る前から大いに楽しみにしていた作品だったが、実際に見てみれば期待以上。1回だけの観劇予定だったが、ストーリーそのものの面白さや緊迫感に加え、予想のつかない登場人物の真の姿や思惑がラストシーンにかけて次々と明らかにされたこともあって、幸いキャンセル分が再販されていた千秋楽に、もう一度足を運ぶことになった。
岡田彩花さんが演じたリリィは、表向きはか弱いヒロインでありながら、最後まで心を開かず、心に企みと打算、世間と人間への恨みを持ち続けるという悪魔的なキャラクター。岡田彩花さんの持つ、翳のある美貌は、特にリリィの本性が明らかになるラストシーンで強く生きた。年明けから、本作への重圧で悪夢にうなされる夜を過ごしたという彼女だが、また一つ、新たな扉を開いた。歌唱シーンは苦戦している印象だったが、観劇した北澤早紀さん曰く『彩花が歌ってることに感動した』ということらしい。北澤早紀さんとは、これからも末永く良い友人・ライバルでいてほしい。
ダブル主演の出口亜梨沙さんは、グラビアアイドルが本職らしいが、「自由だー!」と叫ぶシーンに代表されるように、とにかくよく声が通る。エルは、不幸の軛を背負っておどおどとした弱々しさと、リリィを守るために心を奮い立たせる強さの両方を持っている。出口さんのクリっとした眼を中心とした表情は、そんなエルの内面の複雑さを存分に表現していた。
「赤の女王」ことエリザベートを演じたのは栗生みなさん。出演舞台を観るのは7作品目になるが、最後まで栗生さんが演じていると気が付くことができなかった。これほどの凄味のある演技をする人だということは、これまで不覚にも十分に分かっていなかった。エリザベートの持つ上品で美しく優しい表の顔と、残虐な裏の顔。その両面を完璧に演じるだけでなく、歌唱と踊りでも狭い舞台を圧倒的な実力で支配していた。己が特に好きなのは、上品にダンスを踊りながらヒルダを惨殺するという衝撃的なシーンだ。エリザベートが若い女性を城に集める動機は、単に殺すためではなく、人間の美しさ、善良さを信じたいという淡い期待もあるのではないだろうか。残酷な殺戮は、期待が裏切られたことへの絶望の表れでもあるだろう。
ILLUMINUS作品では常連の千歳ゆうさんは、これまでは素直な役しか見たことがなかったが、今作のアメリアは、優しそうで裏があって、でもやっぱり無限の愛情と純粋さを持つという、こちらもまた複雑な役どころ。彼女にとっても新機軸を刻む作品となった。
日程の都合上、見たのは2回ともダブルキャストのCOFFIN(棺桶)チームだったが、どのキャラクターにも重い使命だったり罪業だったり背負っているものがあり、それぞれの思惑や行動が静かに激しく交差する。フランツィスカやヒルダやアデルといった人物たちの真の目的や思惑を秘めた微妙な表情などは、2回見てこそ楽しめる部分だ。そのほかにも、小生意気で意地悪だったジェシカが次第に変わっていくところや、天真爛漫なムードメーカーであるニーナが背負う十字架の重さなど、周辺のキャラクターにも目配せされることで、物語に深みを与えられていた。オープニングでリリィが生贄に捧げられるシーンは、分かった上であれば大胆な種明かしなのだが、1回目ではストーリーに直接関係するような場面とは露ほども思わずに漫然と見てしまった。
千秋楽のカーテンコールで千歳ゆうさんから明かされたように、「赤の女王」続編の制作が早くも決定ということで、今から楽しみ。「エル=リリィ」と「エリザベート=アメリア」の対決になるのか、はたまた手を取り合って悪魔に対峙するのか・・・。いずれにしても彼女たちに「救い」がもたらされる方向でストーリーが進んでいくはずと予想するが、多くの罪を犯してきた以上、そのためには何らかの犠牲が払われなければならない。「死」という犠牲を払うことができない彼女たちは、何をもって「救済」に到達することができるのか。「救済」と「終焉」は不可分なものなのか・・・。できることならば、今作のキャスティングを引き継ぐ形での続編が観たい。
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天使の図書室5~ほっこり❆ホワイトクリスマス~(女神座ATHENA)@コフレリオ新宿シアター

【脚本・演出】山口喬司

【出演】岩村なちゅ、高塚夏生、橋本瑠果、山川ひろみ
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女神座ATHENAのリーディングライブを見るのは、昨年2月の第2弾、今年1月の第3弾に続いて3回目。いまだに女神座ATHENAというと高田馬場のイメージが強く、今回も当日ラビネストに向かおうという途中になって、ようやくコフレリオが会場であることを思い出した。
このシリーズは、毎回、季節に合わせて題材や衣装を選ぶのが恒例になっていて、今回は当然クリスマス。暖炉と本棚を模したセットを背景に、4人の演者は赤と緑のメルヘンチックなクリスマス柄のワンピースとローファーに身を包んで、クリスマスをテーマにした3つのお話しを読んでいった。
1本目の時計職人の話と、2本目の見習いパン職人の話は、どちらも、自らの利益よりも、目の前の困っている人に対しての利他的行動が、幸福な結末をもたらすというもの。緊迫した展開やどんでん返しといった派手な部分はなかったが、リーディングであれば、このくらい優しい方がいい。2本目のような、実際の歴史の1ページにフィクションを絡めるような形は好きな分野だ。3本目はキャスト総登場で、クリスマスらしいサービス精神が感じられる楽しいお話し。女神座でマイクスタンドが出てきて合唱シーンが見られるのはとても珍しい。山川さんが歌う姿を見たのは初めてかもしれない。
リーディングライブにも皆勤の山川さんは、「読む」部分だけでなく、台本から顔を上げたときの表情や、シーンに合わせて時に重く時に軽やかに運ばれる歩行での表現など、トータルの表現力の高さが魅力的。様々なキャラクターを演じるところが見られるのも、リーディングライブならではで、カエルやハトのコミカルな声色も交えて、ときどき声がひっくり返るところも含めて、彼女の世界を作り上げている。いつもは庶民的な役が多い山川さんのお姫様役が見られたのも貴重だった。
山川さん以外の3人の出演者は、それぞれアイドルグループで活動していた人たちで、初めてお目にかかった。元ぱすぽの岩村さんは柔らかい雰囲気の持ち主で、無垢な少女と我儘な妹キャラの両方とも味が出ていた。27歳という年齢を知って驚いた。元アイドリングの橋本さんは、上品で凛とした雰囲気を活かして、セレブなお嬢様感やお姉さま感を醸し出していた。元SKEの高塚さんは、フライヤーの印象とは違って、衣装とお揃いで髪を赤く染めての出演。岩村さんとは逆に、18歳という実年齢よりも大人っぽく見え、お爺さんや王様の役を与えられていたように、低めの声で落ち着いた演技で持ち味を出していた。
女神座ATHENAの2018年は、リーディングライブが3回。本公演は、昨年9月の「聖餐のプシュコマキア」が最新作となっているが、来年は、新しい作品を本公演で見られることも期待したい。
これで2018年の観劇おさめ。今年は、出演者だけでなく、作風や劇団の合う合わないも気にしながら見に行く作品を選んでいたつもり。そのため、少なめかと思っていた観劇作品数だが、終わってみれば32を数えた。応援している役者さんの関係では、今年いっぱいで仁藤萌乃さんが芸能界を引退、さいとう雅子さんが芸能活動を一旦お休みということでは寂しさがある。一方では、飯田ゆかさんが2年ぶりに舞台の世界に復帰するという嬉しい出来事もあった。もちろん、山川ひろみさんのように、長年地道に活動を重ねて、実力と経験を積み上げていっている方たちのことも尊敬する。来年も、良い作品や役者さんに出会えることを願いつつ、マイペースを崩さないように、観劇ライフを送っていきたい。
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ライナスの毛布(BOBJACK THEATER)@アトリエファンファーレ東新宿

【演出】扇田賢【脚本】守山カオリ

【出演】丸山正吾、長橋有沙、石部雄一、蜂巣和紀、森岡悠、民本しょうこ、花梨、生田善子、小島ことり、渡壁りさ、宮井洋治、片岡由帆、古野あきほ、小林加奈、扇田賢
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3年連続で、BOBJACK THEATERの年の瀬の本公演を観劇。
ベッドと椅子、それから枠だけの扉のみのシンプルなセット上で繰り広げらる4本のオムニバス短編集。時代や空間は四者四様ながらも、不思議な現象の中に人の心の闇と暖かな灯を同時に映す守山ワールドの軸は共通で、フライヤーに描かれた星のように、「無償の愛」が美しく光る。それぞれのパートは30分くらいの時間にすぎないが、密度はとても濃かった。現実に起こりえることを超えていく展開に「ああ、そうきちゃうのかー」と頭では思っているのに、同時に涙も出てくるという不思議な感覚を味わされてしまった。やはりBOBJACKの世界観は心地よかった。
一人の演者が複数の役を演じていく中、舞台に出てくるだけで客席の笑いを誘うような芸達者なボブジャックメンバーや「ほぼジャック」と言われる常連メンバーを中心に、笑いも感動も自由自在。民本さんのぶっ飛びキャラから眠り姫への一瞬の変貌ぶりはさすがだし、4つめのストーリーの繊細で真面目な青年が、ボブきのこのテツオさんとは最後まで気づけなかった。今回も安定の怪演ぶりを見せていた、ことりさんや宮井さんの繊細で泣かせる演技もいつか見てみたい。演出の扇田さんが役者としてもクレジットされていたので、どういう役で出てくるのかと楽しみにしていたら、ちょこちょこと現れては、終始変な動きでひたすら笑いをとることに徹するとは恐るべし。蜂巣さんと森岡さんは、舞台界でこれ以上のお似合いの組合せを探してくることはできないんじゃないかというくらいの理想的な兄妹役だった。
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スナップ・アウェイ(ZERO BEAT.)@テアトルBONBON

【演出・脚本】西永貴文

【出演】北澤早紀、岡田彩花、松波優輝、永田彬、江崎香澄、結城駿、緑川良介、安孫子聖奈、中條孝紀、山岸拓生、鍋嶋圭一、川畑早紀、井関友香、秋月栄志、島本修彰、市瀬瑠夏
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AKBの内と外、活動の場を分けた13期の北澤早紀さんと、岡田彩花さんが、W主演のような位置づけで再会を果たした本舞台。
昨年9月の初舞台「雨のち晴れ」のときには、まだまだ不安な演技を見せていた岡田彩花さん。それから1年少し、舞台出演を精力的にこなしてきた彼女は大きく成長していた。編集部の変わった同僚たちに巻き込まれて参るような表情から、顔の筋肉をいっぱいに使うような感じで、複雑な感情の起伏もしっかりと表現できていた。AKB時代から見たいと思ってもなかなか見ることができなかった、彼女の感情表現の解放。久しぶりに見た岡田彩花さんの変貌ぶりを見ることができたのは大きな収穫だった。
北澤早紀さんは、メガネをかけた編集者役。普通の会社員役は初めてのはずだが、違和感は全くない。落ち着きと、内に秘めた信念と熱さ。彼女自身にも重なるところがある「クマ」役だった。イケイケタイプが好みとか、ヒョウ柄の・・・とかは違うと思いたいけど。北澤早紀さんの舞台出演も、この1年半で6作品と、かなりのハイペース。舞台に呼ばれ続けるというのは、決してAKBメンバーとしての集客力だけを買われているわけではないことは、彼女の演技への対応力を見れば分かる。カーテンコールのコメントも、自分のことを差し置いて周りの人を立てるという「100点満点」のものだった。
演技面での成長が著しい岡田彩花さんと北澤早紀さんだったが、舞台での発声という面では、まだまだ舞台役者を専業とする人たちには及ばない。成長の余地があるということは、これからが楽しみということでもある。カーテンコールで2人で並んで、こそこそを打合せをして、それが上手くいかずに内輪もめをする、そんな姿もどこか懐かしく、微笑ましかった。
コメディと案内されていたので、ドタバタするだけの舞台を見せられるのはちょっと嫌だなと不安も感じていた「スナップ・アウェイ」。実際に見てみたところ、あえてジャンル分けするなら「コメディ」なのかもしれないが、サスペンス的な要素や繊細な感情の表現、感動もあるしっかりしたつくりで、ストーリーもよく練り込まれていた。2つの編集部を行き来しながら進むテンポ感も軽快で、2時間の上演時間中、まったく飽きさせるところがなかった。2つの雑誌の編集長を演じた中條さんと山岸さんの二人は、舞台の重み、軽みを自在にコントロールするような感じの、要石のような存在になっていた。
完成度の高い作品だったが、気になった部分もある。ストーリーの中心的な設定である「週刊誌で部数対決」自体が印刷や流通のことを考えれば非現実的だったり、犯行時は未成年のはずなのに実名報道されてしまうところだったり。そもそも霊が降臨するような世界観なのだから、そんな細かいところに目くじらを立てるのは野暮という考え方もあるだろうが、超現実的な設定であるほど、世界観と関わりのない基本的な設定の粗はないにこしたことはない、と思う。日大ネタはそこそこ受けてはいたが、今のタイミングでそれに乗っかるのは安易な感じもした。
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