~熱風の果て~

観劇の記録

ライナスの毛布(BOBJACK THEATER)@アトリエファンファーレ東新宿

【演出】扇田賢【脚本】守山カオリ

【出演】丸山正吾、長橋有沙、石部雄一、蜂巣和紀、森岡悠、民本しょうこ、花梨、生田善子、小島ことり、渡壁りさ、宮井洋治、片岡由帆、古野あきほ、小林加奈、扇田賢
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3年連続で、BOBJACK THEATERの年の瀬の本公演を観劇。
ベッドと椅子、それから枠だけの扉のみのシンプルなセット上で繰り広げらる4本のオムニバス短編集。時代や空間は四者四様ながらも、不思議な現象の中に人の心の闇と暖かな灯を同時に映す守山ワールドの軸は共通で、フライヤーに描かれた星のように、「無償の愛」が美しく光る。それぞれのパートは30分くらいの時間にすぎないが、密度はとても濃かった。現実に起こりえることを超えていく展開に「ああ、そうきちゃうのかー」と頭では思っているのに、同時に涙も出てくるという不思議な感覚を味わされてしまった。やはりBOBJACKの世界観は心地よかった。
一人の演者が複数の役を演じていく中、舞台に出てくるだけで客席の笑いを誘うような芸達者なボブジャックメンバーや「ほぼジャック」と言われる常連メンバーを中心に、笑いも感動も自由自在。民本さんのぶっ飛びキャラから眠り姫への一瞬の変貌ぶりはさすがだし、4つめのストーリーの繊細で真面目な青年が、ボブきのこのテツオさんとは最後まで気づけなかった。今回も安定の怪演ぶりを見せていた、ことりさんや宮井さんの繊細で泣かせる演技もいつか見てみたい。演出の扇田さんが役者としてもクレジットされていたので、どういう役で出てくるのかと楽しみにしていたら、ちょこちょこと現れては、終始変な動きでひたすら笑いをとることに徹するとは恐るべし。蜂巣さんと森岡さんは、舞台界でこれ以上のお似合いの組合せを探してくることはできないんじゃないかというくらいの理想的な兄妹役だった。
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スナップ・アウェイ(ZERO BEAT.)@テアトルBONBON

【演出・脚本】西永貴文

【出演】北澤早紀、岡田彩花、松波優輝、永田彬、江崎香澄、結城駿、緑川良介、安孫子聖奈、中條孝紀、山岸拓生、鍋嶋圭一、川畑早紀、井関友香、秋月栄志、島本修彰、市瀬瑠夏
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AKBの内と外、活動の場を分けた13期の北澤早紀さんと、岡田彩花さんが、W主演のような位置づけで再会を果たした本舞台。
昨年9月の初舞台「雨のち晴れ」のときには、まだまだ不安な演技を見せていた岡田彩花さん。それから1年少し、舞台出演を精力的にこなしてきた彼女は大きく成長していた。編集部の変わった同僚たちに巻き込まれて参るような表情から、顔の筋肉をいっぱいに使うような感じで、複雑な感情の起伏もしっかりと表現できていた。AKB時代から見たいと思ってもなかなか見ることができなかった、彼女の感情表現の解放。久しぶりに見た岡田彩花さんの変貌ぶりを見ることができたのは大きな収穫だった。
北澤早紀さんは、メガネをかけた編集者役。普通の会社員役は初めてのはずだが、違和感は全くない。落ち着きと、内に秘めた信念と熱さ。彼女自身にも重なるところがある「クマ」役だった。イケイケタイプが好みとか、ヒョウ柄の・・・とかは違うと思いたいけど。北澤早紀さんの舞台出演も、この1年半で6作品と、かなりのハイペース。舞台に呼ばれ続けるというのは、決してAKBメンバーとしての集客力だけを買われているわけではないことは、彼女の演技への対応力を見れば分かる。カーテンコールのコメントも、自分のことを差し置いて周りの人を立てるという「100点満点」のものだった。
演技面での成長が著しい岡田彩花さんと北澤早紀さんだったが、舞台での発声という面では、まだまだ舞台役者を専業とする人たちには及ばない。成長の余地があるということは、これからが楽しみということでもある。カーテンコールで2人で並んで、こそこそを打合せをして、それが上手くいかずに内輪もめをする、そんな姿もどこか懐かしく、微笑ましかった。
コメディと案内されていたので、ドタバタするだけの舞台を見せられるのはちょっと嫌だなと不安も感じていた「スナップ・アウェイ」。実際に見てみたところ、あえてジャンル分けするなら「コメディ」なのかもしれないが、サスペンス的な要素や繊細な感情の表現、感動もあるしっかりしたつくりで、ストーリーもよく練り込まれていた。2つの編集部を行き来しながら進むテンポ感も軽快で、2時間の上演時間中、まったく飽きさせるところがなかった。2つの雑誌の編集長を演じた中條さんと山岸さんの二人は、舞台の重み、軽みを自在にコントロールするような感じの、要石のような存在になっていた。
完成度の高い作品だったが、気になった部分もある。ストーリーの中心的な設定である「週刊誌で部数対決」自体が印刷や流通のことを考えれば非現実的だったり、犯行時は未成年のはずなのに実名報道されてしまうところだったり。そもそも霊が降臨するような世界観なのだから、そんな細かいところに目くじらを立てるのは野暮という考え方もあるだろうが、超現実的な設定であるほど、世界観と関わりのない基本的な設定の粗はないにこしたことはない、と思う。日大ネタはそこそこ受けてはいたが、今のタイミングでそれに乗っかるのは安易な感じもした。
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地球防衛レストラン2(劇団SPACE☆TRIP)@新宿スターフィールド

【演出・脚本】ゴブリン串田

【出演】永友春菜、松樹侑奈、江里奈、崎野萌、佐藤梨菜、田沢涼夏、水野以津美、神崎晴香、西山美海、水谷千尋、関口ふで、尾崎礼香、大塚結香、だんしんぐ由衣、久保田碧、橘あるひ、山口慶子、樹智子
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昨年5月に千本桜ホールで上演された「地球防衛レストラン」の続編。そのときに予告されていたとおり、今度は地底人の侵略を食で救うというストーリー。前回と同じ人が演じるキャラクターには愛着が強いし、ほかにもゴブさんシリーズではお馴染みの役者さんたちもいる。オーナー役の永友さんはじめ、前作と同じ役で出演している人、松樹さんのように違う役を演じる人や前作には出演していなかった人たちが混ざって、世界観を引き継ぎつつ、新たな物語を作り上げていた。
客席からの掛け声やふでさんの食べ物ネタ、あるひさんの客たたきといったお馴染みのネタは安心して笑える。強制的に舞台にまで上げられてしまうというのは初めて見た。最前列が最後まで埋まらないのは、やはりみんないじられることが分かっているからか。あるひさんは、今作で舞台出演は一区切りということのようだが、少し謎めいた、個性の強い役を独特の表現力で演じられる人なので、いつかまた、舞台で演じるところを見てみたい。
殺戮を繰り返した挙句に地球に乗り込んできた宇宙人とは違って、かつて人類に敗れて地底に押し込められた地底人。人数的にも、実力的にも侵略できそうな雰囲気があまりなくて、常識のある人たちなので、勝負の緊迫感はそれほど大きくはなく。むしろ地底人がいい人すぎて、心情的に応援したくなってしまうほどだった。
オープニングで、その2人を演じた永友さんと水谷さんの揺れ動く感情の表現を見るだけでも、きちんとした作品が演じられることが予感できた。水谷千尋さん、はじめて見たが、素直な心を持った地底人役を素直な演技で演じきっていて、大きめの口も生かした表情が魅力的。エンディングの歌でも表情の大きさが目立っていて、演技でもパフォーマンスでも客席に訴えかけることができる人だと思った。
レストラン側の個性に加えて、地底人側も見た目はインパクトのあるキャラクターが揃っていたが、人数が増えた分、それぞれの個性を掘り下げるところはやや足りなかった。地上のレストランと地底のレストランのそれぞれのオーナーとディレクトールが、共通の悩みを抱えて通じ合う場面はよかったが、他のメンバーたちも、それぞれ良きライバル関係を築くようなところがあれば、もっとキャラクターが生きたのではないだろうか。第3弾が上演される可能性を匂わせる終わり方だったので、彼女たちにはまた会う機会があるのかもしれない。
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ご町内デュエル(トランク)@劇場MOMO

【演出】こいづか登【脚本】羽仁修

【出演】長谷川哲朗、夏陽りんこ、石川竜太郎、渡辺隼斗、小澤暢子、小日向茜、遊佐航、古川龍慶、岡田武義、こいづか登、大門与作、松本慎也
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2年連続で、年の瀬に小日向茜さん出演の舞台を劇場MOMOで観劇。昨年の「ラブロバ」とスタッフや出演者が一部重なっていることもあって、そのときのことを強く思い出す。特に、今回はギタリスト役で出演していた大門さんは、つい「ごとぅー」と変換してしまう。あれは思い返すにつけ強烈なキャラクターだった。
客席の観客には全て明らかにされている登場人物たちの素性が、舞台上では意図的だったり偶然だったり本人も気づいていないうちだったり、いろいろな形で隠されたり置き換えられたりする。そこから生まれるギャップに登場人物たちが否応なく巻き込まれていく・・・という構図は「ラブロバ」との共通点。
今作は、そこにアクション的な要素を加えてきていて、しかも、「ラブロバ」では泥棒さん一人が汗だくになっていたのに対して、今回はほぼ全員がドタバタに巻き込まれていくので、舞台上の実際も、人物設定も激しく動く、アクティブ感の強い作品となっていた。狭い舞台での殺陣でもかなりの迫力があって、さすが演出のこいづかさんの立ち回りや存在感はお見事。それがキャラ崩壊だったり滑稽な立ち振る舞いを生み、笑いにつながる。キャラクター的には少し変なところはあっても、観客に近い常識人的な立ち位置にいた主人公まであちら側に行ってしまうに至っては、もはやおもちゃ箱ひっくり返しのイヌフェス状態に。それでも最後には人間的な温かさを主張しながら、無事に着地させてしまうあたりに上手さを感じた。
小日向さんは、事前のアナウンスでは「いたって普通の女の子」役とのことだったが、役作りのために後ろ髪を明るくして、今回のさとみ役に挑んでいた。ヤンキー役ではなかったが、肝っ玉の据わり方や芯の強さは小日向さんと通じるところがあって、さっぱりとしたセリフ回しできっぷのよいキャラクターを演じていた。ダブルカーテンコールでの挨拶を振られたときには、彼女にしては珍しくしどろもどろになってしまっていて、そんなところにも、アイドル師匠から人間くさい役者への歩みが見られた。
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ともだちインプット(アリスインプロジェクト)@シアターKASSAI

【演出】細川博司【脚本】麻草郁

【出演】新谷姫加、森川彩香、夏目愛海、竹内舞、須山朱里、仲野りおん、今井瞳、シミズアスナ、奈良平愛実、花梨、琴森もね、沖田桃果、若松愛里、池澤汐音、桜田初姫、星秀美、西田薫子、あさおか倖、川口ゆずき、漆畑美来、岩本柚、澤田樹奈、高田あおい、國井紫苑、小澤麗那、天音、朝倉奈珠希、喜屋武蓮、木村玲子
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データスフィアの海のように、自らの作品や関わった作品の要素を分解し、再構築していく麻草氏の脚本。今作も、いかにも麻草作品だなと思わせるものだった。始まりと終わりが繰り返される世界という設定はヴェッカー的でもあったが、いちばん近いと感じたのは、「まなつの銀河」。荒れ果てた地球、隔離された学園での終わりの見えない日常など、世界観の類似点が多かった。
例によって、複雑難解な全てを解こうと思って見てはいけないのが麻草作品だが、やはり何らかの解釈はしたくなるもの。しかし、ガートルードやサキ、フユの目的まで絡んでくると、それらを一つの糸に結び合わせるのは、舞台を観ただけではかなり困難な作業になる。
この世界の目下の最大の目的は人間の復活ということだろうか。おそらく実験は何度も繰り返し失敗していて、人類の滅亡からは長い時間が流れている。「まなつの銀河」的な設定であれば、ナツは母親の手によって冷凍保存されていたのかもしれないが、回想シーンではユキの子供はアキだけで、ナツが登場しないのは何故か。ヤツメとソラが抱いていた赤ん坊はナツとアキなのか失敗作なのか。フユを作ったのは誰なのか、この世界では人間の絶滅と復活という二つの勢力が対立しているということなのか。シャンドラは何故重要なのか。冒頭とラストの、ナツとアキが二人だけのシーンは、学園での出来事は遠い過去となっているのか。アキだけでなくナツも姿が変わっていないのは、彼女もまた精巧に人間として作られたアンドロイドということなのか。アンドロイドたちが学園に魅せられ、集まってくるのは単なる偶然か。アンドロイドたちの活動の停止が暗示されることと、サキの死をきっかけに植物や動物の再生が始まったこととは何らかの関係があるのか・・・
謎が謎を呼んでしまうので、終演後も頭の中がスッキリとはしないで、感想を伝えにくいという思いも抱きながら公式イベントや個人イベントに参加したが、あいみんなりの解釈を語ってもらえて、クリアになった部分もあった。もちろん、彼女自身が言うように、これが正解というものがあるわけではなく、観た人それぞれの解釈があっていい。
今年の途中からは、4年前に一度、観劇のモチベーションが急低下してしまったときの反省も踏まえて、舞台を長く楽しみ続けるために、応援している役者が出演する舞台でも、世界観などが合わないことが明らかなものは見に行かないという選択をあえてするようにしていた。そのため、あいみんの舞台を観るのは4月以来で、お話しするのは3月の写真集増刷イベント以来となってしまった。ハルはセリフの量は多くはなく、表情も大きく変えることが許されないので、表現の難しさはあったはず。そんな中でも、バーチカロイドとして、機械的でも人間的でもない、滑らかかつぎこちない動きを崩さず、終盤には核心を突く役割も担って、小さい身体ながら舞台上で存分に存在感を発揮していた。今年も9本の舞台に出演するなど、大活躍の1年。来年もさらに一段上へ、活躍の場と規模を広げていくことになるだろうが、まずは主演舞台を見たいもの。人気、経験、実力、どの面から見ても、その機は熟している。
今年の1月の天使の図書室で舞台デビューした竹内舞さんは、重要な役どころで出演。悪役というには、人間らしく可愛らしい面もふんだんに見られたガートルードだったが、こういう強めかつ華のあるキャラクターを演じられる人というのは実はあまりいないので、貴重な存在。1月の舞台で感じさせた女優としての伸びしろを確かめることができた。
11期生の森川彩香さんを見るのは6年半ぶりか・・・AKB劇場は遠い過去。あーやろいどを自称していた彼女が人間役と聞いたときにはこれ如何にと思ったが、違和感を抑えながら真実を自然に隠して、ラストシーン前の大きな転換に持っていく演技の流れは、卒業後に舞台の経験を重ねてきただけのものが感じられた。
個性的で、それぞれの過去を背負ったアンドロイドたち。印象に残るのはイシスとホタルのコンビ。死に場所を求め続けて自暴自棄にもなりかけるイシスと、助けられた後、彼女に寄り添い、見守るホタル。特に、ホタルがイシスに「死ぬな!」と感情を爆発させて本音を伝える場面は、演じた奈良平さんのセリフへの感情の乗せ方が素晴らしく、ぐっと来るものがあった。
アンドロイドの1号機であるシャンドラを演じた桜田初姫さん、人間的なアンドロイドたちの中で、壊れかけの忙しない動き、そして正常に戻ったときの滔々としたと喋り方とのギャップで存在感を発揮していたが、中学2年生ということを終演後に知って驚いた。将来、大きく羽ばたく可能性を秘めている。
アリスインでは「魔銃ドナー」などに関わってきた細川さんの演出作品を見るのは初めてだった。演劇用語的に何と言うのかは分からないが、ハル、ナツ、アキ、フユの4人の冒険シーンなど、音楽と人間の動きで流れるように表現するシーンが目を引いた。その場面もそうだが、セリフを発している人以外にも目を向けると、それぞれの背景や思惑といったものが感じられることもあって、細かいところまで作りこまれた作品だった。
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