~熱風の果て~

観劇の記録

沼田☆フォーエバー(UDAMAP)@シアターKASSAI

【脚本・演出】松本陽一

【出演】栞菜、中塚智実、石井陽菜、さいとう雅子、宇田川美樹、三浦菜々子、中野裕理、鶴田葵、松木わかは、有馬綾香、古野あきほ、喜屋武蓮、新木美優、藤堂瞬、福田真夕、民本しょうこ、土田卓
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シアターKASSAIの小さな舞台をいっぱいに使ってドタバタとテンション張りっぱなしで演じられる、時代を超え、世界をまたにかけるタイムリープもののコメディ劇。主役の腐女子4人組のデフォルメされたキャラクターを、主演軍団が一層鮮やかに見せる。数多の舞台に出演し、主役も張ってきた女優だからこそできる、気持ちがいいほどの怪演ぶりだった。タイトルにその名を冠する沼田先輩は最後まで舞台にその姿を見せることなく終わった。シアターKASSAIで宙乗りまで見られるとは思わなかった。本来は飛んでいたはずの蜂巣さんは稽古中に2度の心臓発作を起こして一時は生死の境をさまよい、本舞台は降板となってしまったが、命に別状なく、演劇活動にも復帰できたようで安心した。
さいとう雅子さんは、この舞台の後、12年間続けてきた芸能活動を年内で休止することを発表。その演技の魅力に引き込まれ、舞台女優として追いかけてきただけに勿体ない思いはあるが、導き出された彼女の決断は尊重したい。
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蝶つがい(カムカムミニキーナ)@座・高円寺1

【作・演出】松村武

【出演】八嶋智人、松村武、谷川清美、仁藤萌乃、渡邊礼、柳瀬芽美、小林健一、富岡晃一郎、菊川耕太郎、未来、大倉杏菜、栄治郎、長谷部洋子、吉田晋一、亀岡孝洋、田原靖子、元尾裕介、福久聡吾、梶野春菜、三科喜代、清水芳成、スガチズル、柿崎智巳、丸山雄也
妖しく舞う蝶が、諸所に咲く不条理の花弁に羽を休めるとき、そこに物語が生まれる。
小道具をつかった繊細な動きに魅了はされども、奇想かつ壮大なストーリー展開について行けたとは言えず、ラストシーンにはあっけに取られたのみ。こういったものを世の人々は芸術として高く評価するであろうことは想像できるが、己の実感としては伴わなかった。
名の通った劇団の本格派の舞台を観ることで、新しい楽しみ方に気が付くことができるかもしれないという期待は空振りに終わったのだった。
ゲスト出演の仁藤萌乃さんは、後日、年内での芸能界引退を発表。この舞台が見納めとなってしまった。
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ふらちな侍(気晴らしBOYZ)@あうるすぽっと

【作・演出】田中大祐

【出演】木ノ本嶺浩、原嶋元久、輝山立、恵麻、裕樹、右近良之、平野勲人、石井康太、加藤梨里香、酒井俊介、望月卓哉、青木俊輔、岸田タツヤ、冠仁、町田尚規、たむらがはく、古賀司照、両國宏、錦織純平、錦織聡、渡辺克己
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欲得の前に、実態のない価値に振り回される人間達の欲望を滑稽に描いた喜劇作品。絵に描いたような悪代官と悪徳商人が実は正義のために動いていたというどんでん返し。しかし二人は既に正義の刃に斃れた後の祭り。欲の詰まった壺が渡れば、それにつられて演じられる華やかなる皆殺しに舞う血しぶき。個性的な面々が揃って、ストーリーも練り上げられていたが、人物たちを小分けにしたシーンの数が多く、行きつ戻りつで軽快なテンポに欠けた感があるのは惜しまれるところか。
ハーベストの加藤梨里香さん演じるお鶴は、大人しい女中。若旦那に手籠めにされかけるくらいで、終盤までは見せ場らしいところもなかったが、まさかの豹変ぶりのサディスティック乙女。お凛と並んで、女の怖さを存分に見せつけてくれた。
善の悪徳商人・越後屋役の右近良之さんは、25年前に上演された、内田順子さん主演のミュージカル「ごんぎつね」に出演していた大ベテラン。そういう縁のある役者さんの演技を見られるというだけでも、何となしに嬉しさが湧く。
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ノッキンオンヘブンズきのこ(BOBJACK THEATER×隣のきのこちゃん)@シアターKASSAI

【演出】扇田賢、中野裕理【脚本】守山カオリ、ムラコ

【出演】民本しょうこ、丸山正吾、長谷川太郎、石部雄一、石田将士、門野翔、松木わかは、梅原サエリ、双松桃子、遊佐航、中野裕理、小島ことり、渡壁りさ、蜂巣和紀、宮井洋治、片岡由帆、さいとう雅子、七海とろろ、小林加奈
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2つの劇団・プロジェクトの初コラボ企画として上演された本舞台は、演出・脚本も両者合同での制作。これまで、BOBJACK作品は2つ見たことがあって、今作と登場人物の一部を共有する「ノッキンヘブン」は、一時期、舞台を観ることから離れていた己を、再び演劇の良さに気づかせ、観劇人に引き戻す決定打を与えた、思い入れのある作品でもあるので、楽しみな企画だった。
「隣のきのこちゃん」は名前は聞いたことはあったが、見るのは初めて。きのこちゃんを演じているのはBOBJACK所属の民本さんということで、コラボも自然な流れだったのか。開演前に、「ノッキンヘブン」のものと同時に購入したパンフレットを開くと、いきなり、きのこちゃん役の民本さんのプロフィールやQAがひたすらプロレスの世界になっていてぶっ飛んでいると思ったら、最終ページのポチ役のところで真面目に答えていたのね。
序盤はきのこちゃんパート。長谷川太郎さん演じる「青二才」に対して、殴る蹴る、無茶ぶりで振り回したかと思うと、唐突に始まる音楽と妙にハイテンションでピタリと揃ったダンスが織り込まれる。気が付くときのこちゃんワールドの中に問答無用ですっぽりと埋められてしまっていた。恐るべし・・・。唐突な歌のシーンだけのために様々な衣装を用意していたり、長谷川太郎さんなどは前説のためだけにショッカー衣装を準備するという入念さ。太郎さんのことは、「PLAYROOM」のいかにも神経質な桐野範容役でしか見たことがなかったので、実物もそういう人なのかと勝手に思ってしまっていたが、きのこちゃんでは真逆と言ってもいいくらいのいじられ役。これだけの振れ幅を演じられるのはさすがプロだ。
歌の1番と2番を使って、スピーディにBOBJACKパートにバトンタッチ。こういうところも綺麗だ。ノッキンヘブンのオープニングBGMに、まぁこさん演じる探偵助手による回想的なモノローグと、懐かしい世界観が広がる。みのりちゃんに別の作品で会えるとは思ってもいなかったので、そのおっちょこちょいぶりと猪突猛進ぶりを久しぶりに見ることができて嬉しくなる。ことりさん、はっちさん、宮井さんの劇団員トリオは見た目だけでも存在感が十分なところに、キャラの味付けも濃いとくれば反則級だ。少し不思議なことが起きる中に、登場人物たちの寂しさや温かさをくどさを感じさせずに織り込んでくるところはさすが守山脚本。はちゃめちゃな笑いの中にも、しっかりとしたストーリーの軸を持たせ、ストーリーとして成り立たせていた。二つの空間とそれぞれの場所にいる人物を同時並行的に舞台に登場させて、台詞を重ね合わせる手法は、コラボ企画らしくもあり、ラストに向けてのクライマックス感を高めてもくれた。
二つの世界観の中心に位置するのが、とろろさん演じる月子。月が欠けるように、心に翳を抱えた儚げな役で、ルド女人狼でのパッションあふれる理紬とは全く違う役柄。騒動に巻き込まれる中で少しずつ明るさを取り戻し、自分の力で過去の軛を断ち切る強さも備えていた。ワンピースに身を包んで哀し気な瞳を照明に映し出せば、紛うことなきお嬢様。周りと違うテンションで演じ続けるのは大変だったと想像できるが、エンディングなどでのダンスシーンでは、持ち前のパッションあふれる表情をこれでもかと魅せてくれた。はっちさんの渋めの執事役も貫禄があって様になっていた。
まるまる2時間、汗と涙と唾と血を迸らせながら、身体を張り続ける渾身の作品。プロが稽古を重ねて全力でやるバカほど素直に笑えるものはない。テレビのコントの真似事ではなく、こういう舞台でしかできない笑いを求めていた。ゴールデンウィークに出会えたことに感謝したくなる作品だった。
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LADYBIRD,LADYBIRD(アリーエンターテイメント)@シアターグリーンBIG TREE THEATER

【演出・脚本】早川康介

【出演】葛岡有、安島萌、東将司、堀田勝、平山佳延、迫英雄、吉田天音、玉井萌黄、吉田菜々、リチャーズ恵莉、中村楓菜、舟久保美咲希、今村貴空
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毎年の上演を重ねて6年目となるグリーン・ミュージカル「レディバ」。テントウムシの「アン」の3代目として、ハーベストの葛岡有さんが主演を務めた。虫かごの中のムシたちという舞台設定や、子供たちが多く出演するミュージカルということで、明るく楽しく健全な作品を想像していたら、そんな単純なものではなかった。
大人になること、生き方を決めること、誰かを思うこと、死ぬことのペーソスを、虫たちの姿を借りて、シニカルさも交えて紡ぎ出す。子供向けとか大人向けとかは関係なく、むしろ子供たちが多く見る作品だからこそ、甘い皮で包むようなことをせずに、この世界や人生の本質をまっすぐに伝えようとするような、真摯なつくりの作品だった。いつか、子供たちが人生に悩んだ時に、この作品のことを思い出すときもあるだろう。大人たちにもグサリと刺さるような場面はいくつもあったし、子供たちも集中を切らすことなく、静かに舞台を見ていた。子供たちが演じるムシたちの可愛らしさや華やかさはもちろんのこと、大人たちの確かな実力と稽古に裏打ちされたコミカルな演技や歌の力も大きく、飽きさせることのないつくりだった。ミツバチの4姉妹をはじめ、子役といってもみんな演技力が高い。
葛岡さん演じるアンは、前半はどこまでも素直で無垢な感じで、ハーベストで演じた「鉄のあ」役に近い感じかと思って見ていたが、終盤にはその裏に隠された寂しさや本音の部分まで、演技の幅を見せつつ、歌唱も安定していて、見事に主演を務めあげていた。ハーベストでも、今後もきっと新しい面を見せ続けていってくれることだろう。
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