~熱風の果て~

観劇の記録

FINAL JUDGEMENT(東出有貴プロデュース)@座・高円寺2

【演出・脚本】東出有貴

【出演】宮元英光、熊谷知花、西村信彰、東出有貴、四條真悟、夏目愛海、室井一馬、白石みずほ、國友久志、阿佐美貴士、小田あさ美、藍菜、菅野勇城、齊藤和史、波瀬章悟、小松詩乃、青柳伽奈、福田直也、大見魁冴
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初入場となる座・高円寺でテロリストと警察・犯罪者連合との闘いを描くアクション活劇を観劇。
プロデューサーの東出さんを中心に、射程の短い武器や徒手での、スピード感あふれるアクションが随所で繰り広げられた。派手な武器や効果音を使っての殺陣のような分かりやすい華やかさがあるというわけではない上に、難易度は高いと思われるが、きめ細かな動きは見応え十分だった。女性キャストの中では、非情な犯罪者を演じた白石みずほさんの、棒を使っての戦闘シーンの切れ味鋭い動きに目を奪われる。戦闘シーン以外でも、歩き方や喋り方にも独特の個性を付け加えて、雰囲気のある役作りが見事だった。
3週間前の「君サガ」ではこれでもかというくらいに折檻される役だった夏目愛海さんは、テロリスト役として、今回は逆に殴って蹴って斬ってと、初めて本格的なアクションに挑戦。運動神経は良い方とは言えない彼女だが、なかなか良い蹴りを繰り出していて、表情にも充実感があふれていた。
救いが全くないラストは、予定調和のハッピーエンドに安易に持っていくよりは好感が持てる。ただ、記憶を失ったテロリストを殺すために、3年間、親友として、恋人として付き合ってきた兄妹との関係性は、もう少し描きようはあったのではないかと思う。復讐という目的を秘めていたとはいえ、純粋でお調子者の好青年となっていた相手と親しく時間を過ごした3年間は、互いの心に何らかの変化を呼ばずにはおかないはず。あえて非情なシナリオに徹したのかもしれないが、そこの部分の心の揺れや迷いといったものが少しでも描かれていれば、意外性も十分だった結末の悲劇性、もっと言えば作品としての完成度はより高まったようにも思う。
東出さんが大阪出身ということもあってか、重たいストーリーにもかかわらず、吉本的なノリのお笑いシーンが多く挟まる。スパイスとしてこういう要素を入れるのはありだとは思うが、さすがに多すぎて、客席へのサービス過剰のようにも感じてしまった。
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kittens.hateblo.jp

LINK(funfair)@シアターモリエール

【演出】宮元多聞【脚本】江頭美智留

【出演】木根尚登、山本萌花、大友恵理、阿部みさと、清水ひとみ、坂本七秋、蝶羽、山口芙未子、AMI、川副はるか、青木隆敏、望月瑠菜、裕太、矢原加奈子、吉村京太、柿原裕人、小松さら、五十里直子
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いつもとは少し毛色の違う作品も見てみようと、3週間前のハーベスト公演をきっかけに観劇したfunfairの旗揚げ公演。
3つのショートストーリーによって、殺人のリンク、循環を描き出すという作品。ラストが冒頭のシーンに循環したときに見える3つの事件がつながった全体像は、意外性は決して大きくなく、一つの大きな絵が眼前に現れるということはなかった。エピソード1の「殺意」での、松本教授を演じた青木さんの狂気の演技は、劇場の空気を凍らせる迫力があったが、その空気がエピソード2や3に上手くつながらなかったのは惜しまれる。純粋さゆえに犯される罪は、美しくも哀しかった。エピソード3の桐野明日香は、男性の役者が演じているものとばかり思って見ていたが、演じていたのは蝶羽さんという女優さん。独特の存在感を発揮していた。
要領が悪く気は弱いが人間味にあふれる刑事を演じた主演の木根さんのことは、TMネットワークの一員として、また、TBSラジオでやっていた「ウツと木根君」のパーソナリティや、NHK-FMでラジオドラマとしても放送された「夢の木」の原作者として記憶していた。約25年前のビジュアルしか知らなかったが、舞台に登場するとやはり一目で木根くんと分かる。劇中でサングラスをかけて、「懐かしいなぁ」とつぶやくというファンサービスもあった。
ハーベストの主宰である山本さんは、エリート刑事役。スーツ姿が絵になる。アメリカ留学の成果をさっそく発揮して、英語で部下の木根くんを叱り飛ばすシーンをスマートに演じていた。
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明日の君とシャララララ(劇団ハーベスト)@下北沢 小劇場B1

【演出】中村公平【脚本】小林佐千絵

【出演】葛岡有、篠崎新菜、久保田紗友、布施日花梨、加藤梨里香、高橋紗良、山本萌花、弓木菜生、前澤航也、濱田龍司、冨田裕美子、長峰みのり
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劇団ハーベストの第13回公演は、キャストを大きく入れ替えての再演という「君シャラ」。3年前の第7回公演は見ていないので、鉄家を覗くのは今回がお初。春らしい暖かさを存分に感じられる良い作品で、また見たくなって追加でチケットを買って複数回見ることになった。
二面舞台である小劇場B1のつくりを最大限に生かして、舞台となる鉄家の居間を再現していて、縁側は客席の目の前。本当に鉄家の生活を覗いているような気になるような近さだった。出演していないメンバーも含めて全員がスタッフにもなって作り上げるハーベストのやり方は今回も健在で、グッズ担当と前説担当を代わる代わる務めていた。くしゃみとかトイレの話題で、全く場を持て余すことなく親近感あふれるトークを繰り出し続ける川畑さんはさすがだ。
亡くなった叔父さんが娘の結婚式の日に現れるという、現実離れした設定を用いつつも、繰り広げられるのは特別な日ではあっても何気ない日常。桜というありきたりな小道具も、暖かさと華やかさ、寂しさと切なさを舞台に映し出していた。登場人物たちには大人にも子供にも幽霊にも何かしら抱えているものがあって、それが一つづつ解けていくという、ハーベストらしい作品だった。役としての個性と、演じている人のパーソナリティとしての個性が溶け合って、登場人物一人一人が生き生きと描かれていた。布施さんのヤンキーキャラなんかは、もはや様式美の領域だ。たかさらさんが演じた、霊感の強い群馬人・泉ちゃんのキャラも強烈で何回も笑わせてもらった。
主役と言える「のあ」を演じるのは、昨年12月の特別公演では「あー様」を演じていた葛岡有さん。あー様とはまた違った種類の無邪気さがある役だが、彼女の瞳や表情には本当に邪気が感じられない。素直で思いやりがあって、人間関係のごたごたに対しても本質を見失わずに静かに見守るのあの微笑みには、ものすごい癒しパワーがあった。こうなると、次は違ったタイプの役も見たくなってくる。
生ものの舞台らしく、様々なハプニングも起こったが、それを逆手にとってリカバーしつつ盛り上げることすらできるのが、今のハーベストの実力とチームワーク。引き戸が外れれば父親を呼ぶというのはなるほど普通の家庭の反応だろうし、お客を案内するのは予定の人でなくてもそこにいる人がすればよい。見ていた中でいちばんのハプニングは、篠崎さん演じる里香が感情を爆発させる場面で鼻から出血してしまったところ。出端での出血で、台詞も多く言わなければならない中でハラハラさせられたが、ボックスティッシュを差し出したり、血が垂れてしまった床を演じながら拭いたりと、問題なく乗り越えていた。篠崎さんの、感情を乗り移らせての熱演ぶりが分かるシーンでもあった。
異色の登場人物が、加藤梨里香さんが演じた、黄泉の国の国営企業「輪転」の社員という設定の石田くん。コートと帽子の中原中也スタイルで、少し斜に構えた立ち姿が決まっていた。彼の「明日の君とシャララララ」は、切なく、強く、心に訴えかける力があった。スピンオフとして1公演だけ演じられた「最後は君とシャララララ」は見ることができなかったが、そこで石田くんが生きていた頃のことや、鉄家との関わりも語られたのだろうか。
本公演にしては、メンバーの出演が8人と少なめではあったが、本公演といって、劇団員全員が揃うということはないのが劇団では普通のこと。本番中の広瀬さんをはじめ、メンバーたちの外部の舞台への出演の機会は着実に増えているのは、喜ぶべきことだ。
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君よ叫べ、其ノサガノ在ルガ儘ニ(ASSH Annex)@サンモールスタジオ

【演出・脚本】松多壱岱

【出演】小栗諒、瀬戸啓太、夏目愛海、門野翔、持田千妃来、紅葉美緒、花岡芽佳、新木美優、一条龍之介、丸山雷電、南千紗登、ヒロヤ、高橋茉琴、菅本いくみ、小倉江梨花、田中宏輝、梅原サエリ、石原麗、渡井瑠耶、大田早紀、廣野凌大、梅田祥平、相原美月、熊谷里音、駒江由香、増田悠那
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小劇場でのオーディション開催型の企画として立ち上げられたASSH Annexの第1弾は、ASSHの定番となっている白狐丸シリーズ。
このシリーズは、唯一、2011年に演じられた「白キ肌ノケモノ」を見ていて、DVDも持っている。自らの出自と運命に悩む白狐丸の生き様が胸を打つ良作だった。今回の「君サガ」は、物語世界の時系列では、「白キ肌ノケモノ」の次に当たる作品で、土蜘蛛との戦いや親兄弟との因縁とその結末も、粗筋として語られていた。親から捨てられた白狐丸が寺から出ることになった経緯は、設定が反倫理的すぎるということなのか、変更が加えられていた。
白狐丸の苦悩への共感は、自ら悩んだ結果として、もう一人の自分の悪魔の囁きとの葛藤が描かれた「白キ肌ノケモノ」の方が深かった。今作の白狐丸は、過去に受けた仕打ちや運命への悩みに付け込まれた部分はあったにしても、催眠術という外からの力によって我を失う設定だったので、自分との闘い、相克という部分は弱かった。復讐の連鎖、敵役が敵となるべき理由といった深みの点からも、作品自体への共感、衝撃は「白キ肌ノケモノ」には及ばなかった。敵役も、土御門や逸見、永山は権力欲にまみれたただの野心家たちなので、復讐の怨念を背負っていた土蜘蛛のような、共感できる部分は少なかった。逸見が玉依にあれほど依存しながらも自分をコントロールできない原因というのは、これまでの人生の中に必ずあるはずなので、そこを仄めかしてもらえれば、より深みは増したように思う。
自分は登場人物が葛藤するシーンが好きなので、今作では紅葉美緒さん演じる烏摩勒伽が毘陀羅を射るシーンの悲しみを湛えた表情とか、尸鬼が最後の自我を振り絞って自決したときの微笑みが特に印象に残った。
今回のお目当ては、初めてヒロインを務めることとなった夏目愛海さん。夫である逸見から理不尽な暴力を受け続け、耐え忍ぶ玉依は、見ているのも辛い役だった。7発殴られて、1発足蹴にされて。耐える中でも芯の強さは折れることはなく、子を思う母の強さは、序盤のか弱い声音との対比で十分に表現できていた。ヒロインとしては、出番が限られていて、暗い場面が多かったので、見ている方としては不完全燃焼だったが、後のタマキ役での笑顔に救われた。しかし、現代的な感覚で言えば、いくら子供がいても妊娠していても、DV夫からは何を措いてもすぐに離れるべきで、子供のために耐えて一緒にいることは、強さとは言えないんだけど。
玉依の17年後を演じた高橋茉琴さんは、昨年、3つのゴブさん作品でお目にかかっていたが、三味線を弾く姿を見たのは初めて。三味線の音色は、この舞台の世界観にぴったりで、オープニングで物語の世界に観客を引き込む魅力があった。表現される物語の中心で座って、撥を叩く姿は美しかった。玉依が仇討ちを果たしたいという思いは痛いほど分かるが、タマキが生きていたことで気持ちを収められるのであれば、彩葉を仇討ちの理由に持ち出したことや、一時は親子3人で穏やかに過ごしていたこととは整合が取れない気はした。
「白キ肌ノケモノ」では、磯貝龍虎さんが演じていた外道丸役は、瀬戸啓太さん。昨年、「ファントム・チューニング」で観たときは、表情をほとんど変えないクールな敵役だったが、今作では様々な表情が見られた。吠丸の気絶棒で殴られて舌を出して倒れるシーンや、お約束のゲドちゃん心の叫びなど、お茶目な面と、強さと格好良さの両方を存分に舞台で発揮していて、演技の幅の広さに感心させられた。
踊り子役の新木美優さんは、アンドロイドとして迫力のあるアクションを見せていた1年前の「イマジカル・マテリアル」以来。今回は踊りに片手をついての宙返りなど、軽やかに舞うアクション。華やかな衣装に身を包んで、表情も大げさに、大きな口を開けたりと、楽しそうに演じていて、新たな魅力に気づくことができた。
「白キ肌ノケモノ」にも登場した女剣士・和泉は、ちーちゃんこと持田さん。芸能活動が長いとはいっても、まだ20歳であどけなさも残る。それでいて、一人で3人、4人を相手に二刀流まで使っての鮮やかな太刀捌きはお見事。微妙な女心の揺れを表現する表情には、大人の顔を見た。
荼毘役のASSH所属の花岡さんは、とにかくパワフルで、大先輩の紅葉さんを振り回すほどの怪演。万人に受け入れられるタイプの演技ではないかもしれないが、恐ろしい天才を感じた。どこかで見つかれば、5年後くらいにはテレビで活躍している姿が見られても不思議ではない。これで3月まで高校生だったというのだから驚きだった。
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旋律テロル(LIPS*S)@新宿村LIVE

【演出・脚本】吉田武寛

【出演】北澤早紀、中谷智昭、槙田紗子、増山祥太、梶礼美菜、風間庸平、河合国広、高木裕希、恵畑ゆう、河津未来、後藤菊之介、木内海美、こうのゆうか、迫田萌美、植村夏葵、高野美幸、山﨑里紗、土田若菜、木村弥素子、波崎彩音、中田美優、三栗千鶴、石井仁美、藍羽舞、ko-suke、伊藤征哉、星野日菜、吉村萌、keita、大竹真由子、綿貫安由美
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昨年8月の「花嫁は雨の旋律」以来となる、さっきーこと北澤早紀さんの出演舞台を5回観劇。初舞台で示した舞台女優としてのポテンシャルからすれば、再び舞台に上がる姿を見られる時は遠くないことを確信していたが、彼女が夢と公言していた、ミュージカルへの出演の機会が、座長という大役を伴ってこれほど早くやってくるというのは、嬉しい驚きだった。それも、待つのではなくて、自らオーディションに挑んで勝ち取った成果と聞けばなおさらだった。
初挑戦のことが重なっての重圧に悩んで弱音を吐いたり、立ち直っては「昨日の自分を殺したい」という、およそさっきーらしくない鬼気迫る発言が飛び出したりといった中で初日の幕は開いた。彼女が演じるエイミは、家族を奪われた復讐の念に駆られ、旋律の奴隷となって笑顔と感情を封印し、テロを重ねるという役。声を低く抑えながらの演技で、普段の彼女が見せることのない感情や表情が見られるのも舞台ならではだが、なかなか大変だったはず。第1幕の幼少時代に見せる無垢な笑顔との対比が、魔女として生きる道を選んだ後の痛々しさを強くする。「殺してやろうか」というセリフも飛び出すエイミ。前出の過激なつぶやきをしたときには、既に役が乗り移っていたのだろう。
ミュージカルの主役なので、全編にわたって、様々な感情が、ソロ、掛け合い、ハーモニーと、様々な歌に乗せて伝えられる。「ウインブルドン」などで歌唱力の片鱗を見せたことはあったが、さっきーの歌声を、これほど多く、しかも生で聞く機会というのは初めてだった。初日こそ音程の乱れや、高音の伸びが今一つという印象を受けたが、中谷さんが短期間での成長に眼を瞠るほど、舞台上でのパフォーマンスに関しては成長期にある彼女なので、本番期間中にも、感情を乗せる、声量を出す、音程を安定させて声を伸ばすといったあらゆる面で、歌がどんどん良くなっていった。「花嫁は雨の旋律」からの縁をつなぎ、新たな出会いを得て、きっとまた次につながっていくだろう。ラクウェル風に言うならば「あなたは演じるべき人だ」。AKBの肩書きが外れたとしても・・・
設定や展開、登場人物たちの行動には、多少の粗さや練り込み不足を感じる点もあった。神、人、国家のいずれも信じず、いずれにも屈服することを拒み、平和のために悪を引き受けるというラストのエイミの選択は、確かに「面白い」のだが、2時間見てきての結末としては、狐につままれたような感覚に陥ってしまった。その後のエイミの生き方がどういうものになるのか、しばらく考えさせられそうだ。
若手の出演者が中心の中で、ミュージカルとしてどこまでのレベルになるのか、見る前は多少の疑いも持っていたが、華やかに、重厚に、コミカルに、しっかりとしたプロのパフォーマンスが繰り広げられた。CDにはやはり所属の問題でさっきーの歌声が収録されないというのは残念だが、テーマソングに兵士たちの歌に、謎の男の歌に闇クラブの歌にラクウェルの歌・・・。どれもメロディラインだけでなく、舞台上で演じた役者の動きや表情も思い出せるような、心に残る楽曲たちだ。この作品を見て、歌が持つパワーや楽しさを久しぶりに思い出させられた。
登場人物の中では、悪役の位置に立つ高杉が印象に残っている。手段を誤るところはあっても、陰湿さはなく、信念と人情、弱さも併せ持った人物で、敵役ではあっても、悪役と呼ぶのは憚られる。innocentとguiltyのダブルキャストたちは、シングルキャストも巻き込んでそれぞれの個性を見せてくれたし、兵士から市井の人まで様々な役を入れ替わり立ち替わりでこなしたアンサンブルの役者たちの活躍ぶりも、この作品には欠かせないものだった。
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