~熱風の果て~

観劇の記録

Battle Butler(yoppy project)@六行会ホール

【演出・脚本】中島大地

【出演】天野七瑠、今出舞、山沖勇輝、中塚智実長谷川美子深澤大河、中島大地、鵜飼主水、赤間直哉、香乃さき、七海とろろ、冴月里実、大曽根敬大、ヒロヤ、阿佐美貴士、レノ聡、吉野哲平、春見しんや、綾部りさ、嶋田真、倉田果歩、白石れい、神崎洸太、一条龍之介
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一時期離れていた芸能界に復帰した長谷川美子さんを中心として立ち上がった演劇プロジェクトによる第1作。
執事、バトルということで、イケメン俳優たちによるアクションが中心になることは予想できたこの舞台。あとは、そこにどれだけ物語、演劇としての深みを加えてこれるか、少々の不安も抱えながらの観劇だった。
アクションの面では、殺しは厳禁で一定のルールも設定された中の戦いなので、純粋にアクロバティックな動きや駆け引きを堪能するとともに、戦いの中での主人を含む人物たちの心情の変化や、隠された真実を探りながら見ることができた。重厚に、電撃的に、アクロバティックに、執事たちによる殺陣は迫力十分だった。閉じられた空間の中、人間関係の広がり、世界観の広がりという点では限界はあったが、単なるライバルと思われた執事同士、単なる主従と思われた執事と主人との関係が戦いを通して少しずつ変わっていく様子は見ごたえがあった。
冷徹に見える登場人物たちも最後には血の通った暖かい部分を見せ、基本的には性善説で貫かれている。バトルそのものにも、非道な戦い方もなく、真剣勝負で演じられたところもよかった。茶色チームの田舎のお百姓は、どう見てもただの嚙ませ犬で真っ先に退場するかと思いきや、最後まで普通にいい人。演出・脚本も手掛ける中島大地さん演じる金剛大輔の戦いざま、生き様は格好良いの一言。
中塚さんは高飛車で憎々しいお嬢様役で、バトルの真の黒幕であるおっきー演じる執事と組んでの出場。この2人のコンビと言って思い出すのは、「ヴェッカーDNS」。おっきーはあの頃から比べれば、多少ふっくらした感じで、貫禄も出てきていて、その演技や殺陣での存在感も増していた。最後の挨拶も安心して聞いていられる。3.11という日に言及しつつ、しっかりと締めていた。中塚さんはAKBにいた頃よりも、だいぶ自分を解放して、やりたいことを楽しみながらやれているという印象がある。この舞台でも、不器用で素直になれない自分へのもどかしさを内に秘めたキャラクターの変化を、終盤では感極まって涙ぐみながら熱演していた。四童子さんのキャラクターは、彼女と重なる部分もあったのではないだろうか。
昨年12月に見た「〈わたし〉に続く果てしない物語」に出演していた綾部りささんは、その声を活かしてボクっ娘役で出演。外界や人間に興味を示さないボクっ娘が、とろろさん演じるアイドルや他の参加者たちとの交流で、ほんの少しずつでも変わっていく。カーテンコールではずっと涙を見せながら。そこには帽子と俯いた仕草で隠れていたボクっ娘の秘めた思いが存分に表出されていた。アンサンブルのバトルスタッフの中に、何となく親しみを感じる顔の人がいて、「〈わたし〉に続く果てしない物語」に綾部さんと共にセミアンドロイド役で出演していた山田貴之さんと知って納得だった。

シュベスターの誓い(私立ルドビコ女学院)@中野ザ・ポケット

【演出・脚本】桜木さやか【原案】尾花沢軒栄

【出演】前田美里、石井陽菜、星守紗凪、栞菜、黒原優梨白河優菜安藤遥、緒方有里沙、広沢麻衣、夏目愛海、藤堂光結、さいとう雅子、長橋有沙、小野瀬みらい、小菅怜衣、朝比奈南伊藤みのり、藤井彩加、荒井杏子、石川純、今吉めぐみ、木村若菜
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フィギュアを中心にメディアミックス展開を行っているアサルトリリィと、ガールズ演劇をプロデュースしている私立ルドビコ女学園のコラボによるシュベスターシリーズの第3作。3作目は、1、2作目の総集編にして完結編。1、2作目は見ていなくても十分に楽しめた。
敵である昆虫型生物「ヒュージ」は、映像で表現され、戦いは、チャームという武器を空間に向けて振り回す形で行われる。そのチャームがそれぞれ独特な形をしており、見た目の重量感もあり、演者の動きでも重さが表現されていた。日本刀ではここまでの迫力は出ないと思うので、チャームの形状そのものが舞台向きだった。黒原優梨さん演じる未来を相手にした戦闘シーンは、アイドル中心だからとか、そういった妥協を一切感じさせない迫力。虚ろな目で髪を振り乱し、鬼気迫る形相で襲い掛かる黒原さんと、それを受け止める石井陽菜さん演じる幸恵以下、学園の生徒たちが交える一閃ごとに息を飲むほどだった。女性アイドルに殺陣をやらせるというのは、一歩間違えれば作品そのものを壊すことになりかねない危険性も持つが、この舞台ではそんな心配は無用なレベルに達していた。
非現実的な設定が多くある割にはストーリー自体は分かりやすく、登場人物の人間関係と名前が整理できさえすれば、すんなりと入っていける。開演前の世界観のレクチャーも有用だった。物語中では、戦闘だけでなく、嫉妬、恋心、友情、逃避といった、女学生たちの青春の様々な葛藤、心の動きも演じられ、人間関係に深みがあった。上演時間に余裕があれば、何気ない日常の風景を盛り込んで更に戦闘シーンとの対比、不条理な運命との対比を深められそうな気もしたが、限られた時間の中でも、多くの登場人物に課題解決の見せ場が与えられていたし、キャラクターの個性、演者の個性が生かされていた。戦闘になると別人に変わる、リリィオタクの佳世お姉さまの狂気を帯びたキャラがいちばん面白かったかな。
第3作で完結と謳われてはいるが、リリィたちの人間的な成長はあっても、根本的な問題は何も解消されてはいない。リリィたちの養成所とされているガーデン自体が一種の実験装置であるとするならば、その目的はいったい何なのか、また、ヒュージが人類の敵と単純に捉えてよいのか、真の敵はいったい何なのか、未来・来夢姉妹の血の秘密とは誰かに仕組まれたものなのか・・・まだまだ続編の余地はありそうだ。
3作とも座長を務めたという主演の前田美里さんは、この舞台が芸能界での最後の大仕事。彼女の人生にとっても大きな財産となる、これ以上ない有終の舞台だったのではないだろうか。千秋楽でも過度に感傷的になることはなく、来夢を演じきった、この世界でやることをやり切ったという充実感が強く感じられる涙だった。この舞台が彼女の演技を見る最初で最後の機会となってしまったが、その姿はしっかりと焼き付いた。
同じく3作連続の出演となったさいとう雅子さん。今、いちばん好きな女優と言ってよく、彼女の名前でチケットを購入。か弱さと凛々しさの振れ幅の広さを表現でき、そしてアクの強いキャラクターや大げさな表現もくどさを感じさせずに自然と演じきってしまうところは彼女の大きな魅力だ。ツインテールで制服を着て・・・という役どころを演じることはもうないかもしれないが、ぶりっ子でありながら学年一の実力を持つ、鳴海・クララ・優子役はまさに彼女に適役だった。クララが背負っているクママは実はクマオみたいなイマジナリーフレンドで・・・なんていう想像もしてしまったが。長橋有沙さんと共に出演予定という5月のピウス企画の舞台(PLAY ROOM)も見に行きたい。
「46億年ゼミ」では、地味な腐女子を演じていた夏目愛海さんは、今作の新キャラの忍者に憧れる1年生役で出演。「ござる」を付けて喋り、印を結びながら登場するキャラクターは存在感十分で、観客に間違いなく覚えてもらえる、いい役をもらっていた。よく通る特徴的な声はやはり武器になる。前説パフォーマンスやインターバルでは、彼女の素顔も窺うことができた。失敗したり突っ込まれたりすると、ばたついたり隠れたり涙ぐんだり、一方でお辞儀は誰よりも深く長く礼儀正しさも見せる。なるほど、みんなの妹キャラとして愛されるわけだ。高いアイドル性を持ちながら、グループアイドル全盛の時代にあって、ソロで役者としての道を進む彼女の演技はこれからも楽しみにしたい。
バクステ1期生の広沢麻衣さん。バクステの立ち上げの頃は、毎週「つんつべ」を見ていたので、彼女の名前は当時から知っていたが、実際に顔を見るのは初めて。まぁこさん演じるクララへの想いが通じずに意地悪な言動をしてしまう不器用な1年生役で、口をとがらせたり、行動が裏目に出たときの寂しげな表情が可愛らしかった。歌のシーンではウインクを交えたりと、アイドル性という点では抜きんでたものを見せていた。
ショートカットのオレキャラを演じた星守紗凪さんは、独特の透明感、空気感を持ち、舞台上での存在感は強力。普段はロングヘアーで、声優としても活動しているとのことで、明治座で上演されている「SAKURA」でのメイクと衣装での写真を見ると、シュベスターでのボーイッシュな感じとは真逆な感じの艶やかさ。近いうちに大きく羽ばたく可能性を秘めた彼女を、小劇場で見ることができるというのは、場合によっては貴重な機会になるのかもしれない。
栞菜さんの演技を見るのは、3年半ぶり14作目。彼女は何といっても凛とした立ち姿が美しく、舞台上に存在するだけでも絵になるし、演技の安定感も抜群。やはり役者としての魅力にあふれた人だ。髪型やスキップでいじられたり、お茶目な一面も見せていた。
「アサルトリリィ」は、これまで見た舞台の中では、さいとう雅子さんや栞菜さんが出演していた「戦国降臨Girl」と似ている部分がある。若い女性だけが特殊な能力を扱えるという点や、その能力を養成する学園での共同生活など。気持ちが乱れると能力が十分に発揮できず、そこを乗り越えていくという展開にも共通点はある。「アサルトリリィ」は「戦国降臨ガールズ」のように登場人物が次々と斃れていくような展開にはならなかったが、未来が正気に戻って息絶えるシーンは、「戦国降臨ガールズ」で船岡咲さん演じた三ツ子の最期が重なった。
今作のチケットは、見やすい席から順に発券という事前情報だったので、発売開始日に申し込んでいたが、土曜日は平場の3列目。見やすい席を求めて早く申し込みすぎると結果的に見にくい席をあてがわれるという、前から4列が平場という構造の中野ザ・ポケットで発生するゼノンパラドックスのことを忘れていた。以前、別の作品でこの現象が起きた際には後列に余裕があったため席を替えてもらったのだが、今作は満席なので、やむを得ず3列目で観劇した結果、ラストの来夢と幸恵のいちばんの感動シーンが全く見えないという最悪の状況に陥ってしまった。申込者が多かったと思われる千秋楽は、無事にひな壇まで格下げという名の格上げで、舞台上をくまなく見渡すことができた。
千秋楽はトリプルカーテンコールまであったが、時間的な制約でメインキャストの挨拶しか聞けなかったのは少し残念。千秋楽くらいは「特別講義」という名のインターバルのミニイベントを省いてくれるかと期待していたのだけど。内容的にも、駄目出しやチクリ大会よりは、そこで1年生組による歌の披露でもよかったのではないだろうかと思ってもしまうが、そこは教導官の思惑があってのこと。
エンディングでキャスト全員で歌われる「リリィデイズ」は名曲。YouTubeには前作の様子がアップロードされているが、もし、今作のCDに「リリィデイズ」が収録されるようならば購入したい。
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【下は今作の映像】
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天使の図書室~チョコレート・ダイアリー~(女神座ATHENA)@高田馬場ラビネスト

【構成・演出】山口喬司

【出演】山川ひろみ、酒井瞳今出舞
女神座ATHENAのリーディングシアターとしては第2弾となる今作。バレンタインに因む3本のショートストーリーが演じられた。
朗読劇というものを見るのは、女性アイドルによる童話と、イケメン俳優によるBLものという、今になっても意味不明な2本の取り合わせだった、「グリムの森」以来。そのときは、声優によるアフレコのように、台本を片手にした出演者が舞台の中央に集まって、ほとんど動かずに本を読んでいくというスタイルだった。今作の1番手で登場した今出さんは、動き回り、客席に向かって表情もつくりながらのアクティブな朗読からスタートしたので、こういうスタイルもあるのかと感心して見ていた。終演後のコメントによると、朗読劇がどういうものかよく分からないまま自分なりのスタイルをつくっていたとのこと。酒井さんも、演出家から何も言われないのをいいことに自由にやっていたと言っていたので、そういった自由さ、演者ごとの解釈や個性も含めて、この舞台の魅力、面白さになっているということだろう。
偶然にも、加藤智子さん、今出舞さんという元SKEメンバーが出演する2作品をハシゴする形となったが、チケット発売日時点では、今出さんではなく、ぴっかりんこと橋本耀さんがキャスティングされていた。楽しみにしていたのだが、都合により発売から数日で降板し、今出さんが代役としてキャスティングされたのだった。今出さんは、名前を知っていただけで、顔を見るのは今日が初めて。身長以上に大きく見え、顔もはっきりと整っていて、舞台上で存在感を発揮できるタイプ。AKBで言えば前田亜美さんに近いイメージ。来月の彼女の主演舞台も仕事次第で行けるか流動的ではあるものの、チケットは買っているので、どんな演技を見せてくれるのか楽しみ。
酒井瞳さんを見るのは4年ぶり。アドリブでの客を巻き込んで、そして客をいじめる嗜虐教師ぶり。指されなくてよかった・・・。27歳になっていて、すっかり色気のある女教師役が板に付いていた。出演者が持っている台本は、舞台用に綺麗に装丁されるわけでもなく、単にコピー用紙を製本テープで止めたシンプルなもの。ちらっと見えた酒井さんの台本には書き込みもしてあって、こういうところにも朗読劇の面白さを感じた。そして、天使の図書室の前作も経験している山川さんは、あまり動き回らずに、正統派の朗読スタイル。普通のセリフ回しとは違い、単なる本読みとも違う、静かに気持ちを込めた読み方。背負っている重たい運命の設定もあって、舞台の世界へと引き込まれた。いつもの女神座ATHENAや山口さんの作品とは少し違う、穏やかな暖かさが前面に出た作品だった。

DANCE! DANCE! DANCE! 踊りが丘学園~これが私の舞活動~(アリスインプロジェクト)@シアターKASSAI

【演出】扇田賢、【脚本】三井秀樹

【出演】加藤智子山田澪花、秋山ゆずき、水月桃子、田沢涼夏、花梨、矢野冬子星優姫、青柳伽奈、黒木ひかり、仲野りおん、原田真帆、渡辺菜友、渡壁りさ、民本しょうこ、ROSE、永山杏佳、陽向海真珠、幸野ゆりあ、元谷百合奈、中神明日香、最上みゆう、相馬ふうな、勝田麗美、山田香織、未来みき
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扇田さん率いるBobjack Theaterの本公演以来となるシアターKASSAI。その「ノッキンヘブン」と同様、2回の週末を迎える長い上演期間が設定された「踊りが丘学園」。チケットの売れ行きはなかなか好調で、発売初日には既に千秋楽は売り切れとなっていたので、最初の週末で見に行くことにした。客の入りは上々で、開場後間もなくでほぼ座席が埋まる出足の良さ。まだ完成度としては温まり切っていない段階かもと心配もしつつだったが、前半戦にして、早くもセリフのないところでの演技などに工夫と遊びが出てきているという踊りが丘学園。1週間後の千秋楽に向けて、ダンス力が更に上がっていくという期待が持てる、パワーあふれる舞台だった。
ダンスで雌雄を決する学園という設定なので、ダンスの場面が上演時間の半分ほどを占める。バスケ、テニス、アニメ、メイド、鉄道と、それぞれの部活の個性を活かしたビジュアルとダンスを見るだけでも十分楽しめる。そのぶん展開や人間関係は通常の舞台作品と比べれば圧縮されたものになるが、しっかりと起承転結できれいにまとまっていた。
脚本の三井秀樹さんの名前は、元ラッシーフリークな自分としては、やはり何と言っても1996年に放映のアニメ「名犬ラッシー」で数話分の脚本を書いていた人として認識している。数字が全く取れずに半年で打ち切りとなり、後半のロードムービー構想は水泡に帰し、最終回はテレビ放映すらされなかったという不遇の作品ではあるが、日常描写の妙は名作劇場の最後の意地を示したもの。それを監督として手掛けた片渕監督が今、映画作品で注目されているというのも嬉しいことだ。
主演の加藤さんとは、「46億年ゼミ」から2作連続での顔合わせ。気品ある白マリアとガラリと変わって、高校の制服姿にお下げ髪と瓶眼鏡。SKEでも確か年上の方だったはずと生年月日を調べると、今年の4月で30歳を迎えるとのことだが、女子高生役もなかなか似合っていた。AKBで言えば、片山陽加さんに近いイメージ。カーテンコールではさすがに年上の余裕を見せて、周りの出演者の話を司会者のように引き出していた。
ダンスで目立っていたのが、ダンスバスケ部員の巧美役のROSEさん。丸顔で幼さも残るルックスに似合わず、ソロダンスの場面ではアクロバティックなキレキレダンスを見せていた。劇場前には重盛さんからのスタンド花が飾られており、どういう人なんだろうと調べてみたら、重盛さんに憧れて同じ事務所に入って、同じユニットで活動中とのこと。その重盛さんと事務所の後輩との間での争いでは、未成年ながら敢然と重盛さん側に立って大立ち回りを演じたということで、そういう熱さや気の強さも含めて気に入った。後日、もう一度この舞台を見に行ったときに、劇中、ふと入口近くを見ると、ものすごい笑顔で舞台に見入っている女性が目に留まり、さらにカーテンコールでは茶々を入れたりしていたので気になっていたら、その人こそが重盛さんだったらしい。
ダンスバトルが巻き起こる場に忽然と現れ、消えていく謎の「ダンス愛好会」。全てがダンスの学園にあってダンスとはこれいかにと思ったが、ダンス部が様々な事情があって愛好会に格下げになり、ダンスの実況と解説をする役回りに落ちてしまったという設定。舞台最前の両側にお立ち台が設けられていて、ダンス愛好会の二人はそこで喋る場面が多かったのだが、十和子役の花梨さんによるダンス実況がお見事。よく通る声でスラスラとダンスバトルの状況を伝える名実況に聞きほれてしまった。表情やお立ち台で踊っている姿も、部室でやさぐれている姿もまた可愛らしかった。屈折した思いから暗黒面に堕ち、学園の支配を目論むダンスサイエンス部。その思いをさらけ出し、カタルシスへと至るラストシーンは見どころ。サイエンス部部長役の秋山さんは、目に涙を浮かべながらその思いを表現していた。悪役の場面では高笑いが憎らしく、オープニングなどでは笑顔で可憐に。その振れ幅の大きさが魅力的だった。扇田作品にはしばしば登場して怪演には定評があるという民本さん。今作ではアクの強さが全開で、その本領を遺憾なく発揮。途中からは出てくるだけで笑いが起きるほどにしてしまっていた。
今回は扇田さんの演出というのがいちばんの観劇動機で、誰の名前でチケットを買えばよいか迷っていたところ、出演者の顔写真を見る中で目に留まったのが、星組の鉄道部員こだま役の山田香織さん。実際に舞台で見ると、思いのほか小柄で童顔。演技では名前を言い間違えてしまうという失敗もあって、そこで笑いが起きたのは本意ではなかったと思うが、鉄道部の下級生役として、踊りに鉄ヲタ的掛け合いにと頑張っていた。

46億年ゼミ(爆走おとな小学生)@キンケロ・シアター

【演出】加藤光大【脚本】畑雅文

【出演】橘花凛愛川こずえ、宮下奏、石原美沙紀、寺田安裕香、嶋田あさひ、夏目愛海、樹智子、松田実里、伊藤みのり朝比奈南、葛城あさみ、佐倉百音、相澤香純、永田祥子、冬陽田奏心、山城玲奈、荒井杏子、野々宮ミカ、遥奈瞳、加藤智子
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千本桜ホールからキンケロ・シアターまでは電車なら2駅。ゆっくりと時間をつぶしながら徒歩で移動。「キンケロ」とはキンキン・ケロンパ夫婦のことであり、愛川さんが生前に建てた劇場とのことである。劇場ロビーには愛川さんの写真が掲げられていた。初めて座った客席は、広々としてフカフカ、傾斜も取られており、とても見やすい構造だった。
タイトルの「ゼミ」は「ゼミナール」なのか「蝉」なのかが気になっていたが、正解は「蝉」。それならば、その壮大なタイムスケールをどのように生かすのかというのが次の興味。実際の時間移動は2095年から2017年、それから16世紀と、5世紀ほどの間に限られたが、そこを埋めるように登場するのが「神」の存在。この舞台を見て改めて感じたのは、日本人の手による創作作品における「神」の扱い方の難しさ。この作品では「マリア」という名前やベツレヘムといったワードによって特定の神が連想されてしまうような部分もあったが、それは日本人には馴染まない。神が46億年の間、17年ゼミのように孤独に耐え、心を通じ合える人間が生まれることを願っていたという気持ちは、神性を持つ登場人物としての「カミ」であれば分かるのだが、それが「神」とズバリ定義されてしまうと違和感を感じてしまう。
ラストシーンで、登場人物の人間たちが神に対して責任を取れと迫るような感じで、いやいや、そこは人間が自らの未来に責任を背負うことにして、マリアが重く背負ってきた神性を失わせ、楽にしてあげるくらいの展開にすべきではないかと思った。最後は「がんばれ、人間!」と人間に責任を負わせるような形になってよかったが、生きている一人ひとりが等しく歴史に責任を負っているのだ、というところをもっと強調しても良かったのではないかと、そこは多少価値観のズレを感じるエンディングだった。
昨年10月に「ドールズハウス」を見て以来、観劇の楽しさを再発見し、また頻繁に劇場に足を運ぶようになった。この作品には、「ドールズハウス」組から、嶋田あさひさんと伊藤みのりさんの二人が出演している。事前に見ていたビジュアルからは、嶋田さんは戦国の侍で切腹でもしてしまう役かと思っていたのだが、彼女が演じた智代は、推定年齢10歳くらいの末っ子お姫様。舞台上を飛び回り、木刀を振り回し、甲高いお子様声を振りまき。まさに他の人では容易に演じられない、彼女のためのはまり役と言える。ビアンカ役のときは片鱗しか見せていなかったこの声色は大きな武器だ。伊藤さんは色香を振りまく女教師役。確かにウィッチは衣装は網タイツでセクシーなところはあったが、こんなアダルトな役もできてしまうのかと驚き。まだ2回目の舞台ということも意識させない、堂々とした演じっぷりだった。
おとな小学生の前作「初等教育ロイヤル」も見に行こうか悩んで、チケット代があと500円でも安ければ見に行っていたと思う。どの程度の質の作品か分からない中で、手数料合わせて6千円は心理的にハードルが高い。今作は、その「初等教育」組も多く出演していて、中でも注目していたのが、あいみんと呼ばれる少女こと夏目愛海さん19歳。見た目の可愛らしさもさることながら、Twitterから垣間見えるいい子オーラの強さがとにかく稀有。共演者やファンから愛されるのも道理だ。彼女が演じたのは極端にパロディ化された「腐女子」で、ラストはまさかの「腐老婆」。かなり異端な役だったので、彼女の素材が生かされていたかどうかは分からないが、よく通る発声は舞台向き。3月の次回出演作でまた演技を見たいと思う。
腐女子といえば、遥奈瞳さん。多分に人間らしい神様である黒マリアの心の闇を貫禄を持って演じていた。白マリア役の加藤さんからは、白い衣装も似合うと言われていたが、白狐さまを思い出せばまさにそのとおり。
3つの時代を移っていく和希の意識。時代ごとに演者が異なる中で、一人の意識を演じるということは一人二役よりもある意味難しいことだろうと思うが、この作品で演じたトリプル主役の3人は、それぞれの時代の個性を持ちつつ、意識や性格を合わせるという作業を見事にこなしていた。和希役で座長を務めた橘花さんが、名残り惜しそうに、カーテンコールを締めれば終わってしまうと、涙を流しながら次々と発言を振っていく様子がいじらしい。ストーリーを全て受けいれられたわけではないにせよ、ステージ上の演者の熱量の高さを感じたのは紛れもない事実。彼女たちの頑張りに自然と拍手が大きくなった。
最後にパンフレットのつくりには苦言を呈しておきたい。プロフィールと簡単なアンケートという基本パッケージすらなく、単に役者の写真が並ぶだけで、有料パンフレットでありながら、これほど手を抜いた代物にお目にかかるのは初めてだ。売り物とするのであれば、最低限の作りこみはもちろんのこと、買った人に対して何かを伝えようという姿勢は見せてほしいものだ。